はじめに──霧の街で、「見る」ことを託された青年の話
ども、バンブークエストっす。
前回の『柔道部物語』で、俺を柔道部に放り込んだ2冊のバイブルを語り終えました。畳の上から一転、今回は霧に包まれたニューヨークへ飛び込みます。
内藤泰弘先生の『血界戦線』。
かつて紐育(ニューヨーク)と呼ばれた街が、たった一晩で消えた。代わりに現れたのは、異界と現世が混ざり合う霧の都市「ヘルサレムズ・ロット」。そこで世界の均衡を守るために暗躍する秘密結社「ライブラ」と、「神々の義眼」を持ってしまった青年レオナルド・ウォッチの物語です。
始まりは、2008年の「ジャンプSQ」6月号に載った読み切りでした。2010年からは「ジャンプSQ.19」で連載され、単行本は全10巻。続編『血界戦線 Back 2 Back』(全10巻)を経て、2022年10月からは第3シリーズ『血界戦線 Beat 3 Peat』が始まっています。2015年と2017年には、ボンズの制作でTVアニメにもなりました。
『トライガン』の内藤先生が描く、血と異形と、やたらと紳士的な男たち。しかも主人公のレオは、英語版Wikipediaで「若いカメラマン」と紹介されている青年です。20年スチールカメラマンをやってきた俺としては、もう他人事じゃありません。今回もモリモリで行きます。
⚠️ 関係者の皆様、なにか不都合な点などございましたらすぐにご連絡ください。当記事は即刻削除いたします。
※ここから先はネタバレを含みます。
出典:Blood Blockade Battlefront(英語版Wikipedia)、List of Blood Blockade Battlefront characters(英語版Wikipedia)、KAI-YOU「血界戦線」、バンダイチャンネル『血界戦線』

第1章:作品概要──霧の街で、技名を叫んでから殴る
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原作 | 内藤泰弘 |
| ジャンル | 異界と現世が交錯する世界を舞台にしたSF伝奇アクション |
| 始まり | 2008年「ジャンプSQ」6月号の読み切り。2009年2月号〜4月号に『血界戦線 -魔封街結社-』を短期連載 |
| 本編 | 「ジャンプSQ.19」2010年創刊号〜2015年Vol.18。単行本全10巻 |
| 続編 | 『血界戦線 Back 2 Back』。「ジャンプSQ.CROWN」から「ジャンプSQ.RISE」へ移り、2015年〜2022年。全10巻 |
| 第3シリーズ | 『血界戦線 Beat 3 Peat』。「ジャンプSQ.RISE」で2022年10月に開始 |
| アニメ | 第1期(2015年、全12話)、第2期『血界戦線 & BEYOND』(2017年、全12話)。制作はボンズ |
| 舞台 | 2019年11月に東京と大阪で上演。脚本・演出は西田大輔 |
| 英語版 | 北米ではDark Horse Comicsが刊行 |
ざっくりあらすじ
かつて紐育と呼ばれた街は、「大崩落」で一夜にして消えました。異界と融合して生まれ変わったのが、霧で外界と隔てられた都市「ヘルサレムズ・ロット」。異界人と人間が同居し、今後千年の世界の覇権を握る場所とまで言われます。
秘密結社ライブラは、この街で起きるトラブルを未然に防ぎ、世界の均衡を保つ組織。「牙狩り」と呼ばれる世界規模の組織の一部署です。
レオナルド・ウォッチは、妹ミシェーラの視力と引き換えに「神々の義眼」を与えられた青年。妹を救う手立てを探しに街へやってきて、ひょんなことからライブラの一員になります。
敵は、「退屈だから」という理由で街を壊す堕落王フェムトら「13王」。そして、不老不死の吸血鬼「血界の眷属(ブラッドブリード)」。血界の眷属は殺せないので、本当の名前(真名)を知って封印するしかありません。その名前を読み取れるのが、レオの義眼なんです。
「技名を叫んでから殴る漫画」
マンガペディアによれば、本作のコンセプトは「技名を叫んでから殴る漫画」。ライブラの面々は、自分の血液を武器に変える格闘術で戦います。この漢らしさ、小学生のころに必殺技を叫んだことのある全ての大人に刺さります。
もうひとつの特徴は、1〜数話で区切られる1話完結型の構成です。どこから読んでも楽しいのに、街の謎は10巻の時点でもほとんど明かされません。読みやすさと底知れなさが同居している。そこがこの作品の味です。
出典:マンガペディア『血界戦線』、KAI-YOU「血界戦線」、Blood Blockade Battlefront(英語版Wikipedia)、バンダイチャンネル『血界戦線』
第2章:作り手たち──『トライガン』の男が、ニューヨークを壊すまで
内藤泰弘先生は、同人誌から出発して『トライガン』で名を馳せた漫画家です。『血界戦線』は、掲載誌がいくつ変わっても続いてきました。年表にするとこうです。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1967年 | 4月8日、神奈川県横浜市に生まれる |
| 1989年 | 同人誌『サンディと迷いの森の仲間たち』で同人活動を始める |
| 1990年 | 同作が「Little boy」に再録され、商業誌デビュー |
| 1994年 | 会社を辞め、『サムライスピリッツ』の連載で専業漫画家に |
| 1995年 | 「少年キャプテン」で『トライガン』の連載を開始 |
| 1997年 | 『トライガン・マキシマム』が始まる |
| 2008年 | 「ジャンプSQ」6月号に読み切り『血界戦線』 |
| 2009年 | 『血界戦線 -魔封街結社-』を短期連載。『トライガン・マキシマム』で第40回星雲賞コミック部門を受賞 |
| 2010年 | 「ジャンプSQ.19」の創刊号から本編の連載を開始 |
| 2015年 | 本編が同誌の最終号(Vol.18)で完結。4月にTVアニメ第1期。「ジャンプSQ.CROWN」で『Back 2 Back』が始まる |
| 2017年 | 10月にTVアニメ第2期『血界戦線 & BEYOND』 |
| 2018年 | 『Back 2 Back』が「ジャンプSQ.RISE」へ移る |
| 2019年 | 11月に舞台化 |
| 2022年 | 4月に『Back 2 Back』が完結。10月に『Beat 3 Peat』が始まる |
原作:内藤泰弘先生
大学を出て一般企業に勤めたあと、漫画一本に絞った人です。代表作『トライガン』の続編『トライガン・マキシマム』では、SFの賞である星雲賞を受けています。
アメコミやアクションフィギュアのコレクターとしても知られ、神宮司訓之さんとフィギュアブランド「トイトライブ」も主宰。ゲーム『GUNGRAVE』では原案とキャラクターデザインを担当しました。ちなみに神宮司さんは、TVアニメ『血界戦線』でプロップデザインも手がけています。
ここからは俺の見立てです。ニューヨークという舞台、スーツ姿のヒーローたち、恐ろしく細かいメカや小道具。アメコミとフィギュアを愛する人が、自分の好きなものを全部詰め込んだ街。それがヘルサレムズ・ロットなんだと思います。
掲載誌がなくなっても、物語は続く
本編が連載された「ジャンプSQ.19」は、Vol.18で最終号を迎えました。続編を載せた「ジャンプSQ.CROWN」も、英語版Wikipediaによれば2018年1月で幕を下ろしています。それでも物語は「ジャンプSQ.RISE」へ引っ越して、第3シリーズまで来ました。街が何度崩れても、ライブラは仕事を続ける。作品そのものが、ちょっとライブラっぽいんです。
出典:マンガペディア「内藤泰弘」、KAI-YOU「血界戦線」、Blood Blockade Battlefront(英語版Wikipedia)、アニメハック『血界戦線』
第3章:登場人物紹介──血で戦う紳士と、戦えない主人公
秘密結社ライブラの面々と、街をかき回す厄介者たちです。声は2015年のTVアニメ版のキャストです。
| 名前 | どんな人物か | ひとこと |
|---|---|---|
| レオナルド・ウォッチ | 妹ミシェーラの視力と引き換えに「神々の義眼」を得た青年。義眼を使いすぎると、目から血が流れる | 英語版Wikipediaいわく「優しく謙虚な若いカメラマン」。声は阪口大助さん |
| クラウス・V・ラインヘルツ | ライブラのリーダー。十字架を象ったナックルで、血液から巨大な武器を作る「ブレングリード流血闘術」の使い手。血界の眷属を封印できる | 紳士で、正直すぎるほど正直な巨漢。声は小山力也さん |
| スティーブン・A・スターフェイズ | クラウスの片腕。蹴りで触れたものを凍らせる「エスメラルダ式血凍道」の使い手 | 英語版Wikipediaいわく「欺きと直感の天才」。声は宮本充さん |
| ザップ・レンフロ | 火の「斗流血法・カグツチ」の使い手。女好きで血の気が多い、レオの相棒 | クラウスに勝負を挑んでは負け続ける。声は中井和哉さん |
| チェイン・皇 | 「人狼局特殊諜報課」の一員。存在を希釈して透明になる「不可視の人狼」 | ライブラの偵察担当。声は小林ゆうさん |
| K・K | 「954血弾格闘技」の使い手。狙撃や重火器を担当 | 声は折笠愛さん |
| ツェッド・オブライエン | ザップの弟弟子で、風の「斗流血法・シナトベ」を操る半魚人 | 師匠に街へ置いていかれ、ライブラへ。声は緑川光さん |
| ギルベルト・F・アルトシュタイン | クラウスの執事。半身を切られても瞬時に再生する「再生者(レゲネラトーア)」 | 武装車両を操る戦闘執事。声は銀河万丈さん |
| ソニック(音速猿) | 音速で動ける猿 | レオのカメラを盗んだのが縁で、レオのペットに。声は内田雄馬さん |
| 堕落王フェムト | 「13王」の一人。退屈しのぎに街を混乱させる | 負けると子どものように悔しがる。声は石田彰さん |
| 偏執王アリギュラ | 「13王」の一人。欲しいもののためなら手段を選ばない | 声はこおろぎさとみさん |
| ミシェーラ・ウォッチ | レオの妹。兄の義眼と引き換えに視力を失った | 声は水樹奈々さん |
好きなキャラTOP3
- クラウス:牙をむいた巨漢なのに、誰よりも紳士。最強なのに、弱い者の前で自分を大きく見せない。上司にしたい男、不動の第1位です
- レオ:戦えない主人公。できるのは「見る」ことだけ。でも、その一点で街を何度も救う。弱い主人公の強さに、何度も胸を打たれます
- ザップ:女好きで金にだらしなく、クラウスには負け続ける。それなのに、いざというときは頼りになる。クズとかっこよさの均衡を保っている男です
ギルベルトさんは、半身を切られても紅茶を淹れそうな安心感で殊勲賞です。
出典:List of Blood Blockade Battlefront characters(英語版Wikipedia)、マンガペディア『血界戦線』、アニメハック『血界戦線』
第4章:名場面BEST5(ネタバレあり)
原作とアニメから、泣く泣く絞った5つです。巻数は本編『血界戦線』のものです。
第5位:偏執王アリギュラ、モンスタートラックを放つ(原作3巻)
13王の一人アリギュラが街に放ったのは、一般車両を食べて大きくなるモンスタートラック。……もう、設定を聞いただけで笑ってしまいます。
この街では、世界の危機がだいたい悪ふざけの顔をしてやってきます。笑えるのに、放っておけば街が滅ぶ。そのバランス感こそが、ヘルサレムズ・ロットの日常なんだと思います。
第4位:ギルベルトさん、再生しながら反撃する(原作4巻)
「フィリップの脳抜き事件」で、クラウスの執事ギルベルトさんが敵に警告し、体を再生させながら反撃します。
普段は穏やかな紳士が、切られても崩れない。戦う執事って、どうしてこんなに男心をくすぐるんでしょう。俺もいつか、あんな風に年を取りたいです。
第3位:妹ミシェーラからの知らせ(原作10巻)
本編の最終巻。街の外に残してきた妹ミシェーラから、レオは「結婚する」と告げられます。
自分のせいで視力を失った妹。その妹が、兄の後悔より一歩先を歩いていた。救うつもりで街に来た兄が、実は妹に救われる。この構図に、俺は弱いんです。
第2位:ホワイトの選択(TVアニメ第1期)
アニメ第1期の物語の軸になるのが、双子のホワイトとブラックです。ホワイトは、大崩落をせき止める「意思を持った結界」。ブラックは、絶望王と体を共有していました。
クライマックスで、ブラックは自分に宿る血界の眷属に逆らって妹を助け、ホワイトは街を封じ直すために自分を差し出します。友達を失うとわかっていても、レオはその瞬間から目をそらさない。「見る」ことしかできない主人公の、いちばん切ない仕事です。
第1位:「君は卑怯者ではない」(原作1巻)
ライブラに加わったばかりのレオは、義眼を手に入れたいきさつを打ち明けて、泣き崩れます。妹が視力を差し出したとき、自分は何もできなかった。そう自分を責めるレオに、クラウスは「君は卑怯者ではない」と告げ、こう続けます。
光に向かって一歩でも進もうとしている限り 人間の魂が真に敗北する事など断じて無い
クラウス/『血界戦線』1巻より
諦めていないから、まだそこに立っている。それだけで、人は負けていない。この理屈、俺は46歳になった今のほうが刺さります。この一言があるから、『血界戦線』は俺のバイブルなんです。
出典:ホンシェルジュ『血界戦線』の名言・名場面、マンガペディア『血界戦線』、List of Blood Blockade Battlefront characters(英語版Wikipedia)
第5章:実在の街・伝承との対比──「名前を知られたら終わり」の元ネタを掘る
都市伝説とオーパーツ好きの俺としては、ここがいちばん楽しい章です。ただし、作者が元ネタを明言した記録は、今回の調べでは見つけられませんでした。なので「現実にある元ネタ候補(事実)」と「俺の見立て」を分けて書きます。
| 作中の要素 | 現実の「元ネタ候補」(事実) |
|---|---|
| ヘルサレムズ・ロット | スティーヴン・キングの長編第2作『呪われた町』(原題『'Salem's Lot』、1975年)。舞台はメイン州の小さな町「エルサレムズ・ロット(Jerusalem's Lot)」で、住民が次々と吸血鬼になっていく |
| 紐育 | 「ニューヨーク」の漢字表記。作品の紹介文も「かつて紐育(ニューヨーク)と呼ばれた街」と書き出します |
| 諱名 | 諱(いみな)は「忌み名」の意。中国や日本で、実名を口にするのを忌んだ風習から生まれた言葉 |
| 名前で相手を封じる | 民間伝承の「真の名前」。名前を知れば相手に力を及ぼせるとされる。エジプト神話では、イシスが策略でラーの秘密の名を知り、ラーを支配した。ドイツの昔話『ルンペルシュティルツヒェン』では、娘が小人の名前を当てて契約から逃れる |
| ライブラ | ラテン語で「天秤」。天秤座の名前でもある |
「ヘル」+「エルサレムズ・ロット」?(見立て)
ここからは見立てです。「ヘルサレムズ・ロット」を声に出すと、「ヘル(地獄)」と「エルサレムズ・ロット」の合体に聞こえます。しかも、キングの町も吸血鬼に飲み込まれ、こちらの街でも吸血鬼「血界の眷属」が暗躍する。アメリカの小さな町の恐怖を、世界一の大都市まで膨らませた。そんな壮大なオマージュに見えてしかたありません。
名前を知られたら、終わり(事実+見立て)
作中では、吸血鬼にとって「諱名」を知られることは致命傷に等しいとされます。レオの義眼がその名前を映し出し、クラウスが奥義で封印する。これがライブラの切り札です。
そして現実の「諱」も、もともとは口にしてはいけない名前でした。ここまでが事実です。
ここからは見立てです。名前を忌む東アジアの習俗と、名前で相手を縛る西洋の伝承。内藤先生は、この二つを「諱名」という一語でニューヨークの吸血鬼に縛りつけたんだと思います。英語版Wikipediaの「真の名前」の項目には、名前を奪って従わせる『千と千尋の神隠し』の湯婆婆まで載っています。名前に力が宿るという感覚は、俺たちの血にも流れているんです。
天秤の名を持つ結社(見立て)
ライブラの仕事は、異界と現世の均衡を保つこと。その組織に「天秤」の名前を付ける。どちらかを滅ぼすのではなく、釣り合いを取り続ける。その覚悟が、名前の時点で表明されている気がします。
出典:'Salem's Lot(英語版Wikipedia)、True name(英語版Wikipedia)、コトバンク「諱」、RENOTE『血界戦線』記事、バンダイチャンネル『血界戦線』
第6章:源流と影響──ガンマンの砂漠から、霧の大都市へ
この章も、「記録で確かめられた事実」と「俺の見立て」を分けて書きます。
源流①:『トライガン』の「殺さない」主人公(事実+見立て)
内藤先生の代表作『トライガン』は、1995年に「少年キャプテン」で始まったガンアクションです。主人公のガンマン、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは「ラブ&ピース」を掲げ、人を殺さないことにこだわります。ここまでは事実です。
ここからは見立てです。『血界戦線』の血界の眷属も、殺すのではなく「封印する」しかありません。そしてクラウスは、最強の拳を持ちながら、誰よりも紳士であろうとします。殺さずに止める。強さを優しさのために使う。砂漠のガンマンから霧の街の紳士へ、内藤作品の芯はちゃんと受け継がれていると思います。
源流②:アメコミの街、ニューヨーク(見立て)
内藤先生がアメコミやアクションフィギュアのコレクターであることは、第2章で書いたとおりです。ニューヨークといえば、アメリカンコミックスのヒーローたちが飛び回ってきた街。その街を、日本の少年漫画がいったん壊して、異形だらけの遊び場に作り直す。アメコミへの憧れと、少年漫画の遊び心の合体。俺にはそう見えます。
源流③:「技名を叫ぶ」少年漫画の血(事実+見立て)
本作のコンセプトは「技名を叫んでから殴る漫画」。掲載誌は、集英社の「ジャンプSQ」系列です。ここまでは事実です。
ここからは見立てです。必殺技を叫ぶ美学は、俺たちが小学生のころに「ジャンプ」で浴びたものそのもの。それを、スーツを着た大人たちが大真面目にやる。大人になった元少年たちに向けた、全力の少年漫画なんです。
影響:海を越え、舞台へ、第3シリーズへ(事実)
この作品の影響を受けたと明言した作品は、今回の調べでは見つかりませんでした。そのかわり、物語そのものが広がり続けています。北米ではDark Horse Comicsが英語版を刊行し、2025年には3冊合本版も出始めました。2019年には東京と大阪で舞台化され、原作は第3シリーズ『Beat 3 Peat』まで来ています。
出典:マンガペディア「内藤泰弘」、マンガペディア『血界戦線』、Blood Blockade Battlefront(英語版Wikipedia)
第7章:アニメ化──第1期と『血界戦線 & BEYOND』
TVアニメは2015年と2017年の2期。どちらもボンズの制作で、音楽は岩崎太整さん、キャラクターデザインは川元利浩さんです。
| 項目 | 第1期『血界戦線』 | 第2期『血界戦線 & BEYOND』 |
|---|---|---|
| 放送 | 2015年4月〜6月に第11話まで。第12話(最終話)は延期され、10月に46分の拡大版で放送 | 2017年10月〜12月、全12話 |
| 監督 | 松本理恵 | 高柳滋仁 |
| 脚本 | 古家和尚 | 加茂靖子 |
| キャラクターデザイン | 川元利浩 | 川元利浩(総作画監督も兼任) |
| 音楽 | 岩崎太整 | 岩崎太整 |
| アニメーション制作 | ボンズ | ボンズ |
| オープニング | BUMP OF CHICKEN「Hello,world!」 | UNISON SQUARE GARDEN「fake town baby」 |
| エンディング | UNISON SQUARE GARDEN「シュガーソングとビターステップ」 | DAOKO × 岡村靖幸「ステップアップ LOVE」 |
第1期:双子が導く、もうひとつの物語
第1期は、原作のエピソードを描きながら、双子のホワイトとブラックの物語を軸に進みます。大崩落をせき止める結界だったホワイトと、絶望王と体を共有していたブラック。その結末は、第4章の第2位に書いたとおりです。
30分に収まらなかった最終話
最終話は、6月の放送ではなく、10月に46分の拡大版として放送されました。延期を伝えた発表では、30分の枠に収まらないことが理由に挙げられていました。
しかも最終話のタイトルは、オープニング曲と同じ「Hello,world!」。ここからは見立てですが、3か月以上待たされたぶん、あのタイトルが出た瞬間の破壊力はすごかったはずです。
第2期と、その後の追加エピソード
第2期『& BEYOND』では、監督が高柳滋仁さん、脚本が加茂靖子さんに代わりました。英語版Wikipediaによれば、2016年にはガイドブックに付いたOVA、2018年には『Back 2 Back』第5巻に付いたOADも作られています。
出典:アニメハック『血界戦線』、アニメハック『血界戦線 & BEYOND』、KAI-YOU(2015年9月18日)、KAI-YOU「血界戦線」、Blood Blockade Battlefront(英語版Wikipedia)、List of Blood Blockade Battlefront characters(英語版Wikipedia)
第8章:深掘り考察──『血界戦線』が心に残る3つの理由
銃も血も異形も出てくる派手な漫画なのに、読み終わると妙に優しい気持ちになる。その理由を3つに絞って考えてみました。
理由1:「見る」ことしかできない主人公だから
レオは戦えません。できるのは、神々の義眼で「見る」ことだけ。それなのに、血界の眷属の諱名を見抜き、街の危機の正体を見破り、何度も仲間を勝たせます。
しかも、その目は妹の視力と引き換えに手に入れたもの。見るたびに、妹のことを思い出さずにはいられない。レオにとって「見る」は、力であると同時に、罪滅ぼしでもあるんです。
ちなみに名字の「ウォッチ(Watch)」は、英語で「見る、見守る」。ここは俺の見立てですが、この主人公は名前の時点で役目が決まっていたのかもしれません。
理由2:世界を救わない大人たちの物語だから
ライブラは、世界を救いません。異界を滅ぼすことも、街を元に戻すこともしない。毎日起きるトラブルを片づけて、ギリギリの均衡を保ち続けるだけです。
でも、それが一番難しいんですよね。紳士のクラウス、腹の読めないスティーブン、執事のギルベルトさん。派手な最終決戦ではなく、終わらない日常の仕事を、誇りを持って続ける大人たち。働く大人ほど刺さる理由は、ここにあると思います。
理由3:重さと軽さが、同じ皿に乗っているから
モンスタートラックが街を食い荒らす回があれば、妹の視力という重い代償の話もある。ザップのクズっぷりに笑った次のページで、クラウスの言葉に泣かされる。
1話完結のテンポで笑わせながら、街の謎と主人公の痛みは最後まで手放さない。この温度差こそが、ヘルサレムズ・ロットという街の手触りなんだと思います。
俺の結論
『血界戦線』は、世界は救えなくても目の前の誰かは守れる、と信じる大人たちの物語です。そして、その真ん中に「見る」ことを託された青年がいる。技名を叫んでから殴る、大人のための少年漫画です。
出典:List of Blood Blockade Battlefront characters(英語版Wikipedia)、RENOTE『血界戦線』記事、マンガペディア『血界戦線』
第9章:もし実写化するなら──俺の妄想キャスティング
※ここから先は、完全に俺の妄想です。関係者の皆様、どうか笑って許してください。
『血界戦線』の実写映像化は、今回の調べでは見つかりませんでした(2019年に舞台化はされています)。ここでは、異形はCGに任せて、映画を一本妄想します。
| 役 | 妄想キャスト | 理由 |
|---|---|---|
| クラウス | 鈴木亮平さん | 2018年の大河ドラマ『西郷どん』で西郷隆盛を演じた人。大きな体と、包み込むような優しさ。牙のある紳士を任せられるのは、この人しかいない |
| レオ | 神木隆之介さん | 2023年の朝ドラ『らんまん』で、植物を見つめ続ける主人公・槙野万太郎を演じた人。「見る」ことに人生を懸ける青年が、きっとハマる |
| ザップ | 窪田正孝さん | 2017年の映画『東京喰種 トーキョーグール』で、異形の力を宿した主人公・金木研を演じた人。クズっぽさと身体能力、両方いける |
| スティーブン | 西島秀俊さん | 2014年のドラマ『MOZU』で、公安の警察官・倉木尚武を演じた人。笑顔の奥で何を考えているかわからない副官にぴったり |
| K・K | 天海祐希さん | 元宝塚歌劇団月組トップスター。母であり狙撃手、という強さと華を同時に出せる |
| ギルベルト | 草刈正雄さん | 2016年の大河ドラマ『真田丸』で真田昌幸を演じた人。品のよさと、ただ者じゃない迫力 |
そして監督は、山崎貴さんにお願いしたい。『ゴジラ-1.0』で第96回アカデミー賞の視覚効果賞を受けた人です。異形が暴れる大都市を、日本映画で撮れるのはこの人だと思います。
XRの仕事をしている身としては、もうひとつ妄想を。映画の公開に合わせて、ARグラスで街を見ると異界人が歩いている「神々の義眼体験」をやりたい。近所の商店街に、音速猿がまぎれ込んでいたら最高じゃないですか。……たぶん、カメラを盗まれます。
第10章:46歳の俺が、いま『血界戦線』を読んで思うこと
出会いは、漫画から
俺と『血界戦線』の出会いは、漫画でした。紙の上の霧の街は描き込みが細かくて、ページをめくる手が何度も止まります。異界人の一人ひとり、看板のひとつひとつに目が行ってしまう。思えばあのときから、俺もレオと同じように、この街を「見る」側にいたのかもしれません。
「見る」仕事を20年やってきた身として
俺は映画やドラマの現場で、20年スチールカメラマンをやってきました。スチールの仕事は、芝居に手を出さないこと。役者の邪魔をせず、ただ見て、決定的な一瞬を残す。
だからレオが他人に思えないんです。英語版Wikipediaの言葉を借りれば「優しく謙虚な若いカメラマン」。戦う力はなく、できるのは見ることだけ。それでも、見たものから目をそらさない。カメラマンにとって、これ以上の矜持はありません。
ちなみにレオは、音速猿にカメラを盗まれたのが縁で、その猿をペットにしてしまいます。現場でカメラを盗られたら、俺なら一生許しません。レオ、器が大きすぎる。
異界と現実が混ざる街は、XRの未来図かもしれない
今の俺の仕事は、XRで地域を元気にすることです。現実の街に、目に見えない情報や物語を重ねる。それがXRの面白さです。
そう考えると、ヘルサレムズ・ロットは究極の「混ざった現実」の街です。異界と現世が同じ交差点を歩いている。神々の義眼は、その重なりを見通すための、究極のデバイスなのかもしれません(ここは見立てです)。
「光に向かって一歩でも」は、46歳にこそ効く
今、俺はカメラを置いて鍬を持つ準備をしています。46歳からの方向転換は、正直こわいです。うまくいく保証なんて、どこにもない。
そんなときに効くのが、第4章で引いたクラウスの言葉です。諦めずに立っているかぎり、人は負けていない。若いころに読んだら「かっこいい」で終わっていた一言が、今は背中を押す手のひらに感じます。
毎日、小さな均衡を守る
ライブラは世界を救いません。毎日のトラブルを片づけて、均衡を保つだけ。仕事と家族と、これからの畑。46歳の俺の毎日も、たぶん小さなライブラです。技名を叫ぶ場面は、今のところありませんが。
第11章:これから『血界戦線』に触れる人へ──どの版で、どの順番で
原作は3シリーズ、アニメは2期。入口が多いぶん迷いやすい作品ですが、俺のおすすめは基本、漫画からです。
| 版 | 内容 |
|---|---|
| 原作『血界戦線』 | 本編。単行本全10巻 |
| 『血界戦線 Back 2 Back』 | 続編。単行本全10巻 |
| 『血界戦線 Beat 3 Peat』 | 第3シリーズ。2022年10月に「ジャンプSQ.RISE」で開始。英語版Wikipediaによれば、2025年2月の時点で単行本3巻 |
| TVアニメ | 第1期(全12話)と第2期『血界戦線 & BEYOND』(全12話)。ほかにOVAとOAD |
| 英語版 | 北米でDark Horse Comicsが刊行。2025年からは3冊合本版も |
俺のおすすめの順番
- まずは原作の1巻から。俺もここから入りました。1話完結の短中編なので、少しずつでも読み進められます
- 本編10巻を読み終えたら、続編『Back 2 Back』、第3シリーズ『Beat 3 Peat』へ
- アニメは、原作の面々になじんでから。第1期では、音楽と動きでヘルサレムズ・ロットの空気を丸ごと浴びられます
- 第2期『& BEYOND』も、原作を読んだあとだと、さらに楽しめるはずです
読む前に知っておきたいこと
- アニメ第1期は、双子のホワイトとブラックの物語を軸に進みます。原作と見比べると、また違った味わいがあります
- 原作は1話完結型ですが、街の謎はなかなか明かされません。「すべての伏線を回収してほしい」という人より、「街を散歩したい」人向きです
- 『Beat 3 Peat』は続いているシリーズなので、最新巻は購入前に確かめてください
出典:Blood Blockade Battlefront(英語版Wikipedia)、KAI-YOU「血界戦線」、マンガペディア『血界戦線』
おわりに──霧の向こうへ、一歩でも
長々と語ってきましたが、最後に。
『血界戦線』は、「見る」ことを託された青年と、街の均衡を守り続ける大人たちの物語です。世界は救えなくても、目の前の誰かは守れる。技名を叫びながら、それを大真面目にやる。
霧の向こうに何があるのかは、まだわからない。46歳の俺の前にも、畑という濃い霧がかかっています。それでも、光に向かって一歩でも。クラウスの言葉をお守りに、今日も進んでみます。
内藤泰弘先生、素敵な街をありがとうございます。『Beat 3 Peat』の続きも、正座して待っています。
次回予告:バイブル考察⑯ ???
次に何を語るかは……まだ秘密っす。「この作品を語ってくれ!」というリクエストは、X(@bambooquest)までどうぞ。
ではまた、次のクエストで!
あわせて読みたい
バイブル考察シリーズ
- 前の考察:⑭『柔道部物語』
- 次の考察:⑯『私の心はおじさんである』
- シリーズ全作品の一覧を見る