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【バイブル考察⑨】『孔雀王』を語らせろ!九字の元ネタから実写版キャストまで、全55巻を徹底考察【ネタバレあり】

はじめに──「臨・兵・闘・者……」、指を組んだことがある人へ

ども、バンブークエストっす。

前回の『童夢』で、超能力漫画の源流をたどりました。そうなると、どうしても語りたくなる「もう一つの源流」があるんす。

密教、退魔、そして九字。荻野真先生の『孔雀王』です。

『孔雀王』って聞いただけで、両手の指が勝手に印を結び始めます!!!(臨・兵・闘・者……電車の中ではやめておきます。46歳なんで)

連載開始は1985年、週刊ヤングジャンプ。裏高野の退魔師・孔雀が、闇の勢力・六道衆と戦う物語です。本編17巻に続編を重ねて、シリーズは34年間で全55巻。日本の密教から中国の仙術、西洋の魔術、世界の神話まで全部のみこんだ、「オカルト大全」みたいな漫画っす。

都市伝説とオーパーツが大好物の俺にとって、これはもう教科書を通り越して、経典です。

そして荻野真先生は、2019年4月29日に59歳で亡くなりました。『孔雀王ライジング』と『孔雀王 戦国転生』を連載していたさなかのことです。この記事は、考察であると同時に、ささやかな追悼のつもりで書きます。

行きますよ。今回もモリモリで。


⚠️ 関係者の皆様、なにか不都合な点などございましたらすぐにご連絡ください。当記事は即刻削除いたします。

※ここから先はネタバレを含みます。

第1章:作品概要──裏高野の退魔師、34年・全55巻の物語

『孔雀王』は、1985年に週刊ヤングジャンプで始まり、2019年まで続いたシリーズ全55巻の退魔アクションです。本編のあと、続編や前日譚が4つ生まれました。

シリーズ掲載誌・期間巻数ひとこと
『孔雀王』週刊ヤングジャンプ、1985〜1989年17巻すべての始まり。荻野先生のデビュー作でもある
『孔雀王 退魔聖伝』週刊ヤングジャンプ、1990〜1992年11巻本編の続編
『孔雀王 曲神紀』週刊ヤングジャンプ→月刊ヤングジャンプ、2006〜2010年12巻退魔聖伝の4年後が舞台
『孔雀王ライジング』月刊!スピリッツ(小学館)、2012〜2019年10巻孔雀が裏高野に入ったばかりのころを描く前日譚
『孔雀王 戦国転生』コミック乱ツインズ→コミック乱(リイド社)、2012〜2019年5巻曲神紀の続きにあたる、シリーズの最終章

ざっくりあらすじ

主人公は、裏高野の若き退魔師・孔雀。修行中の身なのに酒も飲むし、パチンコも打つ。女性にもめっぽう弱い。でも、いざ魔と向き合うときだけは、誰よりも頼りになる男です。

孔雀が戦うのは、闇の勢力「六道衆」。そしてその戦いは、やがて孔雀自身に流れる「闇の血」の宿命と向き合う旅になっていきます。魔を祓う者が、実はいちばん魔に近い。この一点が、この物語の背骨です。

戦いの舞台は日本にとどまりません。中国の仙術、西洋の魔人、ついには神話の神々まで。密教を軸に、世界中の神話と伝承を織り込んだ、とんでもないスケールの異能力バトルです。

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出典:Peacock King(英語版Wikipedia)、マンガペディア『孔雀王』、ホンシェルジュ(2021年11月20日更新)

第2章:荻野真という作家──SF作家を目指した理系青年が、密教を描いた

荻野真先生は、名古屋大学理学部を中退して漫画家になり、デビュー作『孔雀王』でいきなり大ヒットを飛ばした作家です。

年できごと
1959年5月26日、岐阜県中津川市に生まれる
学生時代SF作家を目指して名古屋大学理学部へ。漫画同人誌に参加するうちに漫画家を志し、中退
21歳ごろ週刊少年ジャンプへの投稿作が入賞
下積み時代政岡としやさん、釈英勝さん、もりたじゅんさんのアシスタントを経験
1985年『孔雀王』で第12回ヤングジャンプ青年漫画大賞を受賞し、週刊ヤングジャンプで連載開始
1990〜1992年『孔雀王 退魔聖伝』
1990年代『夜叉鴉』『小類人』など、孔雀王以外の作品も次々に発表
2000〜2003年『拳銃神』
2006〜2010年『孔雀王 曲神紀』
2012年〜『孔雀王ライジング』と『孔雀王 戦国転生』を並行して連載
2019年4月29日、腎不全のため死去。59歳

理系の頭で組み立てた「伝奇」

SF作家を目指して理学部に入った人が、密教と神話の漫画を描く。一見ちぐはぐに見えますが、俺はここに『孔雀王』の強さがあると思っています。

真言、印、九字。密教の「型」を、まるで技の仕様書のように組み立てて、バトルのルールにしていく。この「信仰を理屈で組む」感覚は、たぶんSF少年だった荻野先生だからこそです。

しかも、デビュー作がそのまま代表作になった。作品はアニメ、映画、ゲームへと広がり、荻野先生自身も中国・上海視覚芸術学院(復旦大学の系列校)の名誉教授を務めました。1993年からは、のちに漫画家として活躍する戸田泰成さんが、アシスタントとして荻野先生を支えています。

そして人生の最後まで、孔雀を描き続けた。亡くなった2019年にも、『ライジング』と『戦国転生』の2本が並行していました。しかも荻野先生は闘病しながら、その2作の最終回まで描き上げていたんです。34年間、ひとりの退魔師と一緒に生きた漫画家。それが荻野真です。

出典:マンガペディア「荻野真」、Makoto Ogino(英語版Wikipedia)、GIGAZINE(2019年5月)

第3章:登場人物紹介──孔雀と、退魔の仲間たち

主人公の孔雀を中心に、ライバルから相棒になる王仁丸、炎を操るヒロインの阿修羅、そして裏高野の師や先輩たちが物語を支えます。

名前どんな人物かひとこと
孔雀裏高野の若き退魔師。本名は明。酒もパチンコも女性も好きな破天荒な僧だが、退魔の腕は一流聖と俗を、ひとりで全部やる男。だから信用できる
王仁丸 太郎邪半分は人間、半分は魔。呪禁道の使い手で、出会ったころは傭兵。孔雀のライバルから親友に見た目は恐ろしいのに、とにかく義理堅い
阿修羅阿修羅王に選ばれた少女。炎を自在に操るヒロイン香港映画版ではグロリア・イップさんが演じた
朋子孔雀の妹。羅睺(ラーフ)、すなわち天蛇王の化身。幼いころ兄と引き離され、ネオナチ系のカルト教団に育てられた兄と妹の宿命が、物語をさらに重くする
慈空 阿闍梨孔雀の師映画『孔雀王 アシュラ伝説』では勝新太郎さんが演じた
日光裏高野の長で、孔雀の先輩。守護神は大日如来頭が上がらない先輩がいるのも、孔雀の魅力
月読裏高野の女人祈祷所を率いる女性。守護神は月光菩薩日光と月読。名前からして密教オタク心をくすぐる
黄 海峰中国の仙術の名門を継ぐ青年。孔雀の第二のライバル朋子への想いが、彼を闇の淵まで連れていく
六道衆孔雀が戦う闇の勢力仏教の「六道」を名乗るあたりが、もういやらしい

好きなキャラTOP3

  1. 孔雀:破戒僧みたいなのに、いざというときは誰よりも僧。このギャップに、俺は完全にやられました
  2. 王仁丸:魔の血を引きながら、いちばん人間らしい義理を通す男。男が惚れる男です
  3. 阿修羅:炎の強さと、運命に振り回される少女の脆さ。その両方を抱えている

出典:Peacock King(英語版Wikipedia)、ホンシェルジュ、ジョルダン映画『孔雀王 アシュラ伝説』

第4章:名場面・名バトルBEST5(ネタバレあり)

『孔雀王』の名場面は、「日本の妖怪退治」から始まって、最後は「神々との戦争」にまで届きます。シリーズをまたいで、5つ選びました。

第5位:漫画喫茶を営む神さま(『曲神紀』)

日本の神々の戦争を描く『曲神紀』には、なぜか漫画喫茶を営む神さまや、退魔師のバンドまで登場します。神話級のシリアスのすぐ隣に、全力の遊び心。この振り幅こそ荻野先生です。ちなみに『戦国転生』では、戦国武将が女性や吸血鬼になって出てきます。自由すぎる。

第4位:アステカの暗黒神との戦い(『退魔聖伝』)

裏高野の僧が、中南米の古代文明の神と戦う。密教とアステカ神話が、同じページでぶつかるんです。オーパーツ好きとしては、もうこの組み合わせだけで白飯3杯いけます。

第3位:国津神と天津神の戦争、「スサノヲの牙」を探して(『曲神紀』)

日本をめぐって、国津神と天津神が戦争を始める。それを止めるために、孔雀は「スサノヲの牙」を探します。『古事記』と『日本書紀』の世界そのものが戦場になる。妖怪退治から始まった物語が、ついに日本の神話と正面から向き合う。シリーズを追いかけてきた読者へのご褒美です。

第2位:明かされる孔雀の出生の秘密(『孔雀王』終盤)

両親が何かを隠している。そう感じさせながら進んだ物語は、終盤で孔雀の出生の秘密を明かします。魔を祓う退魔師が、自分のなかに流れる闇と向き合う瞬間。そして『退魔聖伝』では、その「出自」さえもう一度揺らぐ。自分は何者なのかという問いが、シリーズを貫く太い縦糸になっています。

第1位:闇堕ち寸前の孔雀と、王仁丸の言葉(『孔雀王』6巻)

闇に飲み込まれそうになる孔雀。その孔雀に、王仁丸がかける言葉が、シリーズ屈指の名言です。

おめえにゃそんなツラ似合わねえぜ(王仁丸/『孔雀王』6巻より)

そして、もう一度戦え、と孔雀の背中を押す。半分魔の血を引く男が、闇に落ちかけた親友を光の側へ呼び戻す。退魔の物語でいちばん強い「力」が、真言でも印でもなく友の言葉だった。ここに『孔雀王』の魂があると俺は思います。

出典:ホンシェルジュ(2021年11月20日更新)、マンガペディア『孔雀王』

第5章:実在の密教・オカルトとの対比──どこまでが本物で、どこからが荻野ワールドか

『孔雀王』を読んでいると、どこまでが本物で、どこからが創作なのか、だんだんわからなくなってきます。それこそが荻野先生の術中なんですが、今回はあえて、作中のキーワードを実在の宗教や伝承と並べてみました。

作中のキーワード実在の元ネタ『孔雀王』でのアレンジ
孔雀孔雀明王。毒蛇を食べる孔雀を神格化した明王主人公の名前。孔雀は孔雀明王の生まれ変わりとされる
裏高野高野山。空海が開いた真言密教の聖地高野山の「裏」で魔と戦う退魔師集団。ここは創作
九字中国・道教の書『抱朴子』に出てくる「臨兵鬭者皆陣列前行」日本式の「臨兵闘者皆陣列在前」が、退魔の決め技に
呪禁道古代日本の律令で、典薬寮に「咒禁博士」が置かれた、呪文で病や災いを防ぐ術半魔の傭兵・王仁丸が使う術
大暗黒天マハーカーラ。インドの戦いの神で、大黒さまのルーツ王仁丸の守護神
羅睺(ラーフ)太陽と月を飲み込み、日食・月食を起こすとされたインド神話のアスラ孔雀の妹・朋子は、羅睺=天蛇王の化身
六道衆仏教でいう、迷いの6つの世界「六道」闇の組織の名前

孔雀明王は「怒らない明王」

明王といえば、不動明王のような怒りの顔が定番です。ところが孔雀明王は、明王なのに怒っていません。慈悲深い菩薩の顔で金色の孔雀に乗り、4本の腕に蓮華や孔雀の尾羽を持っています。

ルーツはインドです。毒蛇の害が身近だったインドでは、蛇の天敵である孔雀が神聖視され、ヒンドゥー教の女神マハー・マユーリーになりました。それが仏教に入って孔雀明王になり、蛇の毒だけでなく、病や災い、天変地異まで鎮める仏さまになっていきます。10世紀ごろには、雨乞いの修法としても行われていました。

そして、ここが鳥肌ポイント。本物の高野山・金剛峯寺には、鎌倉時代の仏師・快慶がつくった孔雀明王像が伝わっています。「裏高野」の主人公の名前は、本物の高野山にちゃんと伝わっている仏さまの名前なんです。

ふだんはゆるくて、女性に弱くて、でもいざとなれば誰よりも慈悲深い。孔雀のキャラクターは、「怒らない明王」の姿とどこか重なって見えます(ここは俺の見立てです)。

役小角も修めた「孔雀の呪法」

孔雀明王の信仰は、空海よりずっと古くから日本にありました。9世紀初めの仏教説話集『日本霊異記』には、修験道の開祖とされる役小角(役行者)が「孔雀の呪法」を修めたという伝承が残っています。

主人公の名前をたどっていくと、日本の山岳修行の祖にまで行き着く。名前ひとつに、1,000年を超えるオカルト史を背負わせているわけです。

九字のルーツは「山に入るときのお守り」

孔雀の代名詞、「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」。このルーツは中国にあります。3〜4世紀の道士・葛洪が書いた『抱朴子』の「登渉篇」に、名山に入るときに唱える言葉として「臨兵鬭者皆陣列前行」が出てくるんです。この九字を、常に密かに唱えよ、と。

日本では最後の「前行」が「在前」に変わりました。修験道では、縦と横の線を空中に切る「九字切り」とセットで、魔を断つ護身の作法として受け継がれてきます。

退魔の決め技の正体が、もとは「山に入るときの安全祈願」だった。そう思うと、ちょっとかわいくないですか?

孔雀と蛇、東と西──名前に仕込まれた壮大な仕掛け

ここが、この章でいちばん語りたいところです。

作中で孔雀は、孔雀明王だけでなく、キリスト教の堕天使ルシファー、そして中東の少数派ヤズィーディーの人々が信じる孔雀天使マレク・タウスの生まれ変わりともされています。一方、妹の朋子は羅睺、すなわち天蛇王の化身。闇の組織・六道衆の狙いは、この「孔雀王」と「天蛇王」の復活でした。

ここで思い出してください。孔雀明王のルーツは「毒蛇を食べる孔雀」です。兄は蛇を食らう孔雀で、妹は蛇。兄と妹の悲しい宿命は、仏教の図像そのものに、最初から仕込まれていたことになります。

そしてマレク・タウス。ヤズィーディーの人々にとって、彼は神から生じた天使たちの長であり、善なる存在です。堕天使ではありません。ところが周囲の宗教からは悪魔と同一視され、「悪魔崇拝」というレッテルが、何世紀にもわたる迫害を生んできました。

ここは誤解のないように強調しておきます。現実のヤズィーディーの人々が信じるマレク・タウスは、悪魔ではありません。

それでも、ここに『孔雀王』の深さがあると俺は思います。東の孔雀明王と、西の孔雀天使と、堕天使ルシファー。聖なるものと魔なるものを、ひとりの主人公に束ねてしまった。善と悪の境界線は、見る側が勝手に引いたものかもしれない。「魔を祓う者が、いちばん魔に近い」という物語の背骨は、主人公の名前の時点で、もう完成していたんです。

おまけ:王仁丸の守護神は「怖い顔の大黒さま」

王仁丸の守護神・大暗黒天は、マハーカーラ。もともとはインドの戦いの神です。それが仏教に入って大黒天になり、日本では大国主命と重なって、米俵に乗ってにっこり笑う七福神の大黒さまになりました。食べものや農民、富の神さまです。

恐ろしい戦いの神が、日本で福の神になった。強面なのに情に厚い王仁丸に、これ以上ぴったりの守護神はいないと思いませんか。

都市伝説好きとして:高野山の空海は、今も「生きている」

最後に、本物の高野山の話をひとつ。

空海は承和2年(835年)3月21日に高野山で入定し、今も奥之院の御廟で禅定を続けていると信じられています。だから今でも1日2回、維那(ゆいな)と呼ばれる僧が、御廟の空海に食事を届けているんです。

「裏高野」は創作です。でも本物の高野山にも、物語に負けないくらいの神秘が、ちゃんと息づいています。

出典:コトバンク「孔雀明王」、コトバンク「博士」、Kuji-in(英語版Wikipedia)、Peacock King(英語版Wikipedia)、Tawûsî Melek(英語版Wikipedia)、ラーフ(pedia.3rd-in)、観光庁 多言語解説文データベース「大黒天」、大黒天とは?(choge-blog、2026年1月28日)、tabi-mag「高野山 奥之院」

第6章:源流と子どもたち──『孔雀王』はどこから来て、どこへ行ったのか

最初に正直に書いておきます。荻野先生が「この作品から影響を受けた」と語った記録も、「『孔雀王』に影響を受けた」と明言した作家の記録も、今回の調べでは見つけられませんでした。

なのでこの章は、「事実」と「俺の見立て」を、はっきり分けて書きます。

源流:1984年の日本には、密教伝奇の材料がそろっていた(事実)

『孔雀王』が始まる直前、日本ではこんなことが起きていました。

年できごと
1984年夢枕獏さんの小説『魔獣狩り』が登場。真言密教の術に通じた天才と中国拳法の使い手たちが、高野山から盗まれた空海のミイラをめぐって戦う、サイコダイバー・シリーズの第1作
1984年弘法大師(空海)御入定1150年の御遠忌。川崎大師では、これを記念した八角五重塔が落慶
1985年『孔雀王』が週刊ヤングジャンプで連載開始
1988年夢枕獏さんの小説『陰陽師』が登場

高野山、空海、密教。『孔雀王』が始まる前の年に、この3つのキーワードは、もう出そろっていたわけです。

ここからは見立てです。『孔雀王』は、ゼロから突然生まれた作品というより、この空気のど真ん中に、漫画という形で飛び込んできた作品なんだと俺は思っています。小説が描き始めていた密教伝奇の熱を、漫画で、しかも青年誌で真正面からやり切った。そこに『孔雀王』の新しさがありました。

子どもたち①:作品そのものが生んだもの(事実)

  • 『退魔聖伝』『曲神紀』『ライジング』『戦国転生』の4つの続編・前日譚(第1章の表のとおり)
  • OVA、日本と香港の合作映画2本、そしてゲーム(くわしくは第7章で)
  • ゲームは海外でもタイトルを変えて発売。2020年には、Manga Planetが英語版の電子配信を始めています
  • 1993年からアシスタントを務めた戸田泰成さんは、のちに漫画家として活躍
  • 荻野先生の別作品『怨霊侍』と同じ名前のキャラクターまで、孔雀の仲間として名を連ねています(荻野ユニバース!)

子どもたち②:「印を結ぶ」バトルの系譜(ここからは見立て)

印を結び、真言を唱え、術を放つ。いまの漫画やアニメでは、すっかりおなじみの表現です。

たとえば『NARUTO -ナルト-』では、十二支にちなんだ12の印を組み合わせて忍術を発動します。『呪術廻戦』では、両面宿儺が領域展開「伏魔御廚子」で、閻魔天の印を結びます。

ただし、これらの作品の作者が『孔雀王』からの影響を語ったわけではありません。ここは混同しないでください。

それでも、密教の印や真言を「バトルのルール」として組み込むこと。これを1985年の時点で、青年誌のど真ん中で全力でやり切ったのが『孔雀王』でした。直接の親子ではなくても、同じ系譜に連なる「遠い親戚」くらいには呼んでいい。俺はそう思っています。

ちなみに、妖怪退治ものの名作『うしおととら』や、オーパーツと超古代文明の『SPRIGGAN』も、このブログで語っています。『孔雀王』が刺さった人には、きっとこっちも刺さるはず。

出典:コトバンク「夢枕獏」、鉄道チャンネル「川崎大師金剛山平間寺 広い!」、Peacock King(英語版Wikipedia)、マンガペディア「荻野真」、ホンシェルジュ、Every Hand Sign In Naruto(Looper)、ピクシブ百科事典「伏魔御廚子」

第7章:映像化・ゲーム化──三上博史、阿部寛、緒形拳、勝新太郎

『孔雀王』は、連載中の1980年代後半から、OVA、実写映画、ゲームへと一気に広がりました。

年月ジャンルタイトルポイント
1988年4月OVA『孔雀王 鬼還祭』監督・秋山勝仁さん。孔雀の声は関俊彦さん
1988年9月ゲーム(ファミコン)『孔雀王』ポニーキャニオンのアドベンチャーゲーム
1988年9月ゲーム(セガ・マークIII)『孔雀王』海外では『SpellCaster』として発売
1988年12月実写映画『孔雀王』日本・香港合作。監督はラン・ナイチョイ。三上博史さん、ユン・ピョウさん、グロリア・イップさん、緒形拳さんほか
1989年7月OVA第2作「幻影城」監督・板野一郎さん。孔雀の声は辻谷耕史さん
1989年11月ゲーム(メガドライブ)『孔雀王2 幻影城』海外では『Mystic Defender』として発売
1990年2月実写映画『孔雀王 アシュラ伝説』孔雀は阿部寛さん、慈空は勝新太郎さん
1990年8月ゲーム(ファミコン)『孔雀王II』ポニーキャニオン。MSX版もあり
1991年9月OVA第3作「櫻花豊穣」監督・秋山勝仁さん
1992年6月ゲーム(メガドライブ)『闘技王キングコロッサス』『孔雀王』とは別のオリジナル作品。荻野先生がキャラクターデザインや原作ストーリーを担当
1994年5〜6月OVA『真・孔雀王』(全2巻)監督・りんたろうさん、制作はマッドハウス

実写版の「格」がとんでもない

改めて見ると、実写映画のキャストがすごいんです。

1作目の『孔雀王』(1988年)は、日本と香港の合作。孔雀を三上博史さん、もうひとりの孔雀ともいえるコンチェ(「孔雀」の中国語読み)をユン・ピョウさん、阿修羅をグロリア・イップさん、そして慈空を緒形拳さんが演じています。

2作目の『孔雀王 アシュラ伝説』(1990年)では、孔雀を阿部寛さん、慈空を勝新太郎さんが演じました。

慈空役に、緒形拳と勝新太郎。いま考えると、師匠の「格」がとんでもないことになっています。20年、撮影現場にいた身からすると、日本と香港のスターをひとつの作品にまとめたスタッフの苦労は、想像するだけで胃が痛くなります(笑)

アニメは、名監督がずらり

アニメはOVAで全5本。監督には、高速の戦闘演出「板野サーカス」を生んだ板野一郎さんや、劇場版『銀河鉄道999』(1979年)のりんたろうさんが名を連ねています。

ゲームは、海外で「孔雀王」の名前を脱いだ

セガのマークIII版とメガドライブ版は、海外ではタイトルを変えて発売されました。マークIII版は北米で『SpellCaster』、メガドライブ版は『Mystic Defender』。『Mystic Defender』の主人公は、Joe Yamato(ジョー・ヤマト)という名前になっています。

海外のゲーマーの中には、それが『孔雀王』だと知らずに遊んでいた人も多かったはず。ちょっとした都市伝説みたいな話です。

荻野先生、ゲームまでつくる

1992年にメガドライブで発売された『闘技王キングコロッサス』。『孔雀王』とは別のオリジナル作品ですが、ゲーム内のクレジットでは、荻野先生がキャラクターデザインや原作ストーリー、共同ディレクションまで担当しています。漫画家が、ゲームの中身にまで踏み込んでいた。荻野先生の「伝奇を組み立てる力」は、紙の外でも通用したんです。

出典:Peacock King(英語版Wikipedia)、allcinema『孔雀王 鬼還祭』、TheTVDB「Spirit Warrior」、MyAnimeList「Shin Kujakuou」、ジョルダン映画『孔雀王』、ジョルダン映画『孔雀王アシュラ伝説』、SpellCaster(英語版Wikipedia)、Mystic Defender(英語版Wikipedia)、Tōgi Ō: King Colossus(英語版Wikipedia)、Video Game Densetsu「Makoto Ogino」、CGWORLD「板野サーカス」、アニメハック『銀河鉄道999』(1979)

第8章:深掘り考察──『孔雀王』が40年たっても色あせない3つの理由

連載開始から41年。いま読み返しても古びない理由を、3つに絞って考えてみました。

理由1:「聖」と「俗」を、ひとりの男に同居させた

孔雀は修行の身なのに、酒を飲み、パチンコもして、女性にめっぽう弱い。それでも、いざ魔と向き合えば誰よりも僧らしい。

ここで面白いのが、真言宗のお坊さんが日々読誦するお経『理趣経』です。その最初の章には「十七清浄句」と呼ばれる一節があり、人間の欲望や営みも、その本質は清らかだと説いています。

欲を否定するのではなく、欲ごと抱えて悟りへ向かう。そう考えると、孔雀の破天荒さはただのギャグではなく、密教の思想をまるごと体現したキャラクターに見えてきます(もちろん、ここは俺の解釈です)。

完璧な聖人は、読者の手の届かないところにいます。でも孔雀は、俺たちと同じようにだらしない。だからこそ、彼が本気になった瞬間に、こっちの胸まで熱くなるんです。

理由2:「闇」を、外ではなく内側に置いた

退魔ものの多くでは、魔は「外」からやってきます。でも『孔雀王』の闇は、孔雀自身の血の中にある。自分自身に流れる闇の血の宿命と向き合っていく物語なんです。

敵を倒しても終わらない。いちばんの敵は、自分の内側にいるから。大人になるほど、この構造が刺さります。仕事でも家庭でも、本当に手ごわいのは、たいてい自分の中の「闇」の方ですからね。

理由3:世界中の神話を「ひとつの宇宙」に束ねた

密教、道教、キリスト教、ヤズィーディーの孔雀天使、アステカの神、日本の天津神と国津神。ふつうなら混ぜたら事故る素材を、荻野先生は「孔雀」という一本の軸で束ねてしまいました(第5章参照)。

都市伝説やオーパーツが好きな人なら、わかると思います。バラバラに見える世界中の伝承が、実はどこかでつながっているかもしれない。この「全部つながってる感」こそ、オカルト好きの最大の快感です。『孔雀王』は、その快感を全55巻かけて味わわせてくれる、巨大な装置なんです。

俺の結論

聖と俗、光と闇、東と西。『孔雀王』は、ふつうなら対立するものを、ひとつの体に抱えさせる物語です。だから古びない。白か黒かで割り切れない時代だからこそ、むしろ今、読み返す価値がある。俺はそう思っています。

出典:ホンシェルジュ、マンガペディア『孔雀王』、Rishu-kyō(英語版Wikipedia)

第9章:もし今、実写化するなら──俺の妄想キャスティング

※ここから先は、完全に俺の妄想です。関係者の皆様、どうか笑って許してください。

第7章で見たとおり、本家の実写映画はとんでもない顔ぶれでした。孔雀に三上博史さんと阿部寛さん、慈空に緒形拳さんと勝新太郎さん。このハードルを超えるキャスティングを、本気で考えてみました。

役妄想キャスト理由
孔雀鈴木亮平さんNetflix映画『シティーハンター』で冴羽獠を演じた人。女好きでだらしないのに、決めるときは決める。孔雀に必要なのは、まさにあの振り幅です。原作の孔雀より年上なのは、このさい目をつぶります
王仁丸山田孝之さん映画『闇金ウシジマくん』の丑嶋馨。見た目は怖いのに、自分の筋は通す。強面なのに情に厚い王仁丸に、いちばん近いところにいる人だと思います
慈空役所広司さん2023年のカンヌ国際映画祭で男優賞。緒形拳、勝新太郎と続いた「師匠の格」を継げるのは、この人しかいない
黄海峰横浜流星さん空手の国際大会で優勝した経歴の持ち主。剣を振るう仙道の名門の跡取りに、本物の体のキレを
阿修羅新人オーディション炎を操る12〜15歳の少女。ここは、まだ誰も知らない新しい顔に託したい

そしてアクション監督は、谷垣健治さんにお願いしたい。1993年に単身で香港へ渡り、香港映画のスタントマンから叩き上げた人です。『るろうに剣心』シリーズのアクションも担当しています。かつて日本と香港が手を組んだ『孔雀王』を、もう一度、日港のアクションの血でよみがえらせる。これ以上の座組はないと思うんです。

このメンバーで、九字を切るシーンをIMAXで観たい。……妄想は自由っす。

出典:リアルサウンド「鈴木亮平が冴羽獠役に!」(2022年12月)、ジョルダン映画『闇金ウシジマくん』、ムービーウォーカープレス「役所広司が…カンヌ国際映画祭男優賞を受賞!」、秋田魁新報「横浜流星、知られざる下積み時代告白」(2026年9月27日)、Forbes JAPAN(谷垣健治さん)、Peacock King(英語版Wikipedia)

第10章:46歳の俺が、いま『孔雀王』を読み返して思うこと

連載が始まった1985年、俺は5歳でした。

それから40年あまり。映画やドラマの撮影現場でスチールカメラマンを20年やって、いまはXRの仕事をしながら、2人の子どもの父親をやっています。そんな46歳の目で読み返すと、刺さる場所が昔とはまるで違いました。

王仁丸みたいな友だちが、何人いるか

闇に落ちかけた孔雀に、王仁丸は「おめえにゃそんなツラ似合わねえぜ」と言いました。

大人になると、こういうことを言ってくれる人が減ります。仕事の場では、みんな礼儀正しい。でも本当に必要なのは、落ちかけたときに「らしくねえぞ」と言ってくれる友だちなんですよね。王仁丸みたいな友だちが何人いるか。それが、人生の豊かさなんじゃないかと思うんです。

だらしなくても、逃げなければいい

ちゃんとした父親、ちゃんとした社会人。そうありたいと思う一方で、だらしない自分も確かにいる。孔雀は、その両方を隠しません。だらしなくても、いざというときに逃げなければいい。孔雀にそう言われている気がします。

闇は、なくすものじゃなく、付き合うもの

年を重ねるほど、自分の中の弱さやずるさは、消えるどころか、よく見えるようになってきます。孔雀もまた、自分に流れる闇の血と向き合い続けました。闇は消せなくても、どう向き合うかは選べる。『孔雀王』は、そのことを34年かけて描いた物語だったんじゃないか。俺はそう読みました。

元スチールカメラマンとして:「手」の説得力

20年、撮影現場でスチールを撮ってきた目で見ても、荻野先生の描く「手」はすごい。指を組み、印を結ぶ。あの複雑な手の形を、迫力のある構図で、週刊連載で描き続けた。印が嘘くさく見えたら、この漫画は成立しません。『孔雀王』の説得力の半分は、あの「手」が支えていたと俺は思っています。

最後まで描き切るということ

荻野先生は、闘病しながら『ライジング』と『戦国転生』の最終回まで描き上げて、旅立ちました。高野山では、今も毎日、空海の御廟に食事が運ばれています。続けること。描き切ること。46歳になって、それがどれだけ難しくて、どれだけ尊いことか、ようやくわかってきた気がします。

出典:GIGAZINE(2019年5月)、マンガペディア『孔雀王』、tabi-mag「高野山 奥之院」

第11章:これから『孔雀王』を読む人へ──おすすめの読む順番

全55巻。どこから手をつければいいか迷う人のために、俺のおすすめ順をまとめました。

順番シリーズ巻数ひとこと
①『孔雀王』全17巻まずはここから。すべての始まり
②『孔雀王 退魔聖伝』全11巻本編の続編。アステカの暗黒神、そして天津神へ
③『孔雀王 曲神紀』全12巻退魔聖伝の4年後。国津神と天津神の戦いへ
④『孔雀王 戦国転生』全5巻曲神紀の続編にして、シリーズの最終章
⑤『孔雀王ライジング』全10巻孔雀の少年時代を描く前日譚

『ライジング』を最後にしたのは、俺のこだわりです。すべてを見届けたあとに、少年時代の孔雀に戻ってくる。そうすると、34年分の物語がぐるっと一周してつながるんです。もちろん、発表順どおり『曲神紀』のあとに『ライジング』と『戦国転生』を並行して読むのもアリです。

読む前に知っておきたい3つのこと

  1. 全シリーズ、最終回まで描き切られています。荻野先生は闘病中に、『ライジング』と『戦国転生』の最終回を完成させていました。安心して最後まで読めます。
  2. 電子書籍でも読めます。BookLiveでは、5シリーズ全55巻の配信を確認できました。荻野先生のデジタル画集『孔雀王曼荼羅』もあります。
  3. 青年誌の作品なので、色っぽい場面や流血もそれなりにあります。お子さんに渡すなら、ちょっと年齢を考えてからで。

【まとめて購入】

出典:BookLive「荻野真」作品一覧、GIGAZINE(2019年5月)、ホンシェルジュ

おわりに──臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前

長々と語ってきましたが、最後に。

『孔雀王』は、密教の教科書でも、オカルトの百科事典でもありません。だらしなくて、優しくて、自分の中の闇と向き合い続けた、ひとりの男の物語です。

荻野真先生。34年間、孔雀を描き続けてくれて、ありがとうございました。闘病しながら最終回まで描き切ったその姿は、どんな真言よりも強い「力」だと、俺は思います。

さて、今夜は指を組んで寝ます。臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!(もちろん電車の中ではやりません。46歳なんで)

次回予告:バイブル考察⑩ ???

次に何を語るかは……まだ秘密っす。「この作品を語ってくれ!」というリクエストがあれば、ぜひXで教えてください。

ではまた、次のクエストで!

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