柔道 漫画/COMIC/アニメ

【バイブル考察⑬】『帯をギュッとね!』を語らせろ!部員全員1年生の柔道部が日本一へ。幻の技「山嵐」の実話まで徹底考察【ネタバレあり】

はじめに──帯を締め直して、青春の畳へ

ども、バンブークエストっす。

前回の『最果てのパラディン』では、骸骨とミイラと幽霊に育てられた少年と一緒に、剣と誓いの世界を旅しました。今回は一気に現実へ戻ります。舞台は静岡県。浜松の地名がちりばめられた、架空の県立高校の畳の上です。

河合克敏先生の『帯をギュッとね!』。

柔道部のない高校に入学した5人の1年生が、自分たちで柔道部を作り、日本一を目指す。あらすじだけ聞くと、ど直球のスポ根です。でもこの作品に掲げられていた看板は「NEW WAVE JUDO COMIC」。汗と涙と根性だけじゃない。笑いと恋と、ちょっとおバカな男子高校生の毎日が、ぎっしり詰まっています。

連載は週刊少年サンデーで、1988年12月から1995年まで。連載が始まったとき、俺は8歳。終わったときは15歳。小学生から中学生までの俺の時間を、まるごと並走してくれた作品です。

いや、並走どころじゃありません。白状すると、俺が中学で柔道部に入ったのは、2つの漫画に背中を押されたから。そのうちの1冊が、この『帯ギュ』です。

中学時代は柔道に打ち込んで、団体戦では関東大会まで行きました。……補欠だけど。

ちなみに「帯ギュ」という略称で呼べば、同世代とは一瞬で話が通じます。今回は元柔道部員の目線もまじえて、いつも以上にモリモリで行きます。帯をギュッと締めて、ついてきてください。


⚠️ 関係者の皆様、なにか不都合な点などございましたらすぐにご連絡ください。当記事は即刻削除いたします。

※ここから先はネタバレを含みます。

出典:マンガペディア「『帯をギュッとね!』を読むと印象が変わる?! 未経験でも楽しい柔道マンガ」(2016年8月2日)、マンガペディア「静岡県が舞台だで読んでみて!オススメ漫画5選」(2019年10月8日)、マンガペディア『帯をギュッとね!』、マンガことば『帯をギュッとね!』

©河合克敏

第1章:作品概要──部員全員1年生、ゼロからの柔道部

項目内容
作者河合克敏
掲載誌週刊少年サンデー(小学館)
連載期間1988年12月〜1995年12月
単行本少年サンデーコミックス 全30巻(1989年9月〜1996年4月)
その他の版ワイド版 全15巻(1998〜2001年)、小学館文庫 全16巻(2002〜2004年)、電子版
ジャンル柔道を軸にした青春スポーツ漫画。ラブコメとギャグもたっぷり
看板NEW WAVE JUDO COMIC

ざっくりあらすじ

中学3年の粉川巧は、柔道の初段の昇段試験に向かう途中、自転車で車と接触事故を起こしてしまいます。たまたま居合わせた県警の柔道師範・倉田典善は、自転車が壊れても無傷だった巧に柔道家としての興味を持ち、会場まで送ってくれました。

その試験会場で出会ったのが、のちの仲間となる杉清修、斉藤浩司、三溝幸宏、宮崎茂。中学時代は柔道のライバル同士だった5人は、偶然にも同じ県立浜名湖高校に入学します。ところがその高校には、柔道部がなかった。

5人は担任の倉田龍子先生を顧問に巻き込み、部員全員が1年生という柔道部を立ち上げます。無名の新設チームが、ライバル校との試合を重ねながら強くなり、やがて全国の舞台へ。それが『帯をギュッとね!』の物語です。

タイトルの「帯」

タイトルの「帯」はもちろん、柔道着の帯。物語は、5人が黒帯(初段)をかけて挑む昇段試験の日から始まります。帯をギュッと締めるのは、試合の前だけじゃない。何かを始めるとき、もう一度がんばるとき。このタイトル、大人になってからの方が効いてきます(ここは見立てです)。

【まとめて購入】

出典:マンガペディア『帯をギュッとね!』、マンガペディア(2016年8月2日の紹介記事)、マンガことば『帯をギュッとね!』、まんが王国『帯をギュッとね!』

第2章:河合克敏という作家──柔道、競艇、書道。「知らない世界」の案内人

河合克敏先生は、1964年5月2日、静岡県引佐郡引佐町(現在の浜松市)生まれ。俺より16歳上の、浜松出身の漫画家です。

年できごと
1964年5月2日、静岡県引佐郡引佐町(現在の浜松市)に生まれる
デビュー前上條淳士さんのアシスタントを務める
1987年「週刊少年サンデー増刊」の『爆風GIRLS』でデビュー
1988年『爆風GIRLS』で第1回少年サンデーコミックグランプリ大賞。12月、『帯をギュッとね!』の連載を開始
1995年『帯をギュッとね!』完結
1996年競艇漫画『モンキーターン』を週刊少年サンデーで連載開始(2005年まで)
1999年度『モンキーターン』で第45回小学館漫画賞 少年部門
2004年『モンキーターン』がTVアニメ化(テレビ東京、全50話)
2006年高校の書道部を描く『とめはねっ! 鈴里高校書道部』を発表
2019年『うどんちゃん』を発表

連載デビュー作で、いきなり長期連載

『帯をギュッとね!』は、河合先生の連載デビュー作です。それが人気を集めて、約7年、単行本30巻の長期連載になりました。新人がいきなり「柔道、しかも部活もの」で、最後まで走り切る。いま振り返ると、とんでもないことです。

柔道経験者だから描けた、本物の畳

マンガペディアの紹介記事によれば、河合先生は柔道経験者。だからこの作品には、本格的な柔道の描写やルールの説明がたくさん出てきます。そして作中の校名には、浜松の地名にちなんだものが多い。自分の足で立った畳と、自分の生まれた土地。その両方が、この作品の土台になっているんです。

「知らない世界」を、楽しく見せる名人(見立て)

柔道のあとは競艇、そのあとは書道。題材はバラバラですが、河合作品には共通点があると俺は思います。それは、「よく知らない世界を、その世界を知らない人にも楽しく見せる」こと。ルールや技をたっぷり説明しながら、それを説教くさく感じさせない。その原点が、この『帯ギュ』なんです。

出典:マンガペディア「河合克敏」、マンガペディア(2019年10月8日の紹介記事)、Monkey Turn(英語版Wikipedia)、Shogakukan Manga Award(英語版Wikipedia)、マンガことば『帯をギュッとね!』

第3章:登場人物紹介──浜名湖高校柔道部と、愉快なライバルたち

主役は、中学時代のライバル同士だった5人。そこに、女子の仲間と大人たち、そして個性だらけのライバルが加わります。

名前どんな人物かひとこと
粉川巧浜名湖高校柔道部の先鋒。はじめは不安定だが、勘の鋭さで土壇場に強い主人公。幼なじみの近藤保奈美と恋仲に
杉清修部長。実家は浄土真宗の寺で、丸坊主ムードメーカーでギャグ担当。なのに女子にも人気
斉藤浩司副部長。体が柔らかく、連続技が得意な試合巧者団体戦では大将が多い。中学時代は柔道部の主将
宮崎茂部内でいちばん小柄。巴投げが得意中学時代は軽量級で県大会ベスト4
三溝幸宏身長195cmの大型選手。内股や払腰が得意大きな体に、泣き虫な一面
近藤保奈美柔道部マネージャー。巧の幼なじみ他校の選手データを集める行動派
海老塚桜子マネージャーから部員に。運動神経抜群柔道を始めて急成長する
倉田龍子担任で柔道部顧問。剣道三段の数学教師指導はスパルタ式
倉田典善県警の柔道師範で、龍子の父巧たちの師匠のような存在
藤田恵三方ヶ原工業高校の強豪。内股が得意で、中学時代に全国優勝巧の終生のライバル
堀内平八郎暁泉学園の主将。パワー型で、ボクシング経験も巧と保奈美の幼なじみ
石塚孝裕県内有数の進学校・佐鳴高校の部員女子に人気のライバル
玉城一史沖縄尚北の中心選手全国大会で浜名湖高校の前に立ちはだかる

好きなキャラTOP3

  1. 杉清修:お寺の息子で丸坊主の部長。笑わせて、盛り上げて、でも寺の息子だけあって、いざというときは腹が据わっている。こういう人がいる部活は、絶対に強くなります
  2. 藤田恵:中学で全国の頂点に立った天才。主人公の「終生のライバル」という立ち位置が、この漫画の最後の最後まで効いてきます
  3. 三溝幸宏:195cmの巨体で、泣き虫。強いのに優しい。強いのによく泣く。このギャップに、何度やられたかわかりません

倉田龍子先生は、剣道三段の数学教師にしてスパルタ顧問という、設定だけでご飯3杯いけるので殊勲賞です。

出典:マンガペディア『帯をギュッとね!』、マンガペディア(2016年8月2日の紹介記事)、マンガペディア(2019年10月8日の紹介記事)

第4章:名場面BEST5(ネタバレあり)

全30巻、名場面だらけです。物語の流れに沿って、泣く泣く5つに絞りました。

第5位:昇段試験の朝と、幻の技「山嵐」

中学3年の巧は、初段の昇段試験へ自転車で急ぐ途中に、車と接触してしまいます。自転車は壊れたのに、本人は無傷。その姿を見ていた県警の柔道師範・倉田典善は、巧を会場まで送り届けます。

そしてその試験で、巧は三溝に対して、タイミングが難しく「幻の技」とも呼ばれる「山嵐」を決める。のちの仲間5人が、はじめて同じ畳の上で出会う瞬間です。

事故、師匠との出会い、そして伝説の技。第1話から、もうこの漫画の「運命の歯車」は回りはじめています。ちなみにこの「山嵐」、現実の柔道史でもとんでもない由来を持った技なんです。その話は第5章で。

第4位:秋の地区大会、幼なじみとライバルを越えて

1年目の秋、高校選手権の地区大会。準決勝の相手は、巧と保奈美の幼なじみ・堀内平八郎が率いる暁泉学園でした。あらすじをまとめた記事によれば、巧は副将戦で堀内に勝利。そして決勝では、終生のライバル・藤田を擁する三方ヶ原工業を破り、全国大会への切符をつかみます。

この大会には、斉藤が倉田典善から奇襲として教わった「谷落とし」や、三溝の「ヴァン・デ・ヴァル投げ」など、見どころが盛りだくさん。部員全員1年生の無名校が、地区の強豪を倒していく。この高揚感は、部活漫画の醍醐味そのものです。

第3位:全国の壁と、沖縄尚北へのリベンジ

はじめての全国大会。浜名湖高校は一回戦で、沖縄尚北の玉城一史らに敗れます。地区では勝てても、全国にはもっと強いやつがいる。その当たり前の現実を、この漫画はちゃんと描きます。

そして2年目のインターハイ全国大会。あらすじ記事によれば、巧は玉城に勝利して、ついにリベンジを果たします。ただし団体戦はベスト8で千駄谷学園に敗れ、個人戦でも巧は決勝で鳶嶋雅隆に一本負け。一歩ずつしか強くなれない。でも、一歩ずつなら、確実に強くなれる。そういう話なんです。

第2位:千駄谷学園との決勝、そして日本一へ

2年目の高校選手権全国大会。決勝の相手は、全国の強豪・千駄谷学園でした。あらすじ記事によれば、巧は大将戦で鳶嶋に勝利。ついに浜名湖高校が日本一になります。

マンガペディアの紹介記事も、千駄谷学園との団体戦と個人戦を「最大の見どころ」と紹介しています。柔道部もなかった学校の1年生5人が、全国の頂点に立つ。一歩ずつの積み重ねが、ここで一気に報われるんです。

第1位:最終話、終生のライバルとの試合が、始まる

物語の最後。大学生になった巧は、全日本選手権に出場します。あらすじ記事によれば、かつての仲間・三溝を破って決勝へ。そして決勝の相手は、藤田。ライバル二人の試合が始まるところで、物語は幕を閉じます。

勝ち負けを描かずに終わる。これには、もうやられました。終生のライバルとは、勝ったり負けたりしながら、ずっと組み合い続ける相手のこと。だからこの試合は、読者の心の中で今も続いている。俺はそう受け取っています。

出典:マンガペディア『帯をギュッとね!』、マンガペディア(2016年8月2日の紹介記事)、マンガペディア(2019年10月8日の紹介記事)、RENOTE「帯をギュッとね!(帯ギュ)のネタバレ解説・考察まとめ」(2024年10月4日)、まんが王国『帯をギュッとね!』

第5章:実在の柔道との対比──「山嵐」と三人の「三四郎」

この章は、都市伝説と歴史好きの俺がいちばん書きたかったところです。「記録で確かめられた事実」と「俺の見立て」を分けて書きます。

幻の技「山嵐」は、実在する(事実)

巧が中学時代に決めた「山嵐」。これは作り話の必殺技ではなく、講道館や国際柔道連盟(IJF)でも正式な名前を持つ、実在の投技(手技)です。

年「山嵐」をめぐるできごと
明治時代嘉納治五郎の弟子、西郷四郎の得意技。嘉納は「西郷の前に山嵐なく、西郷の後に山嵐なし」と評したとされる
1920年手技の整理で、分類からいったん外される
1926年『新式柔道』で、理論に偏り実戦に向かない技として掲載が省かれる
1942年富田常雄の小説『姿三四郎』で、西郷をモデルにした主人公が完成させた必殺技として登場
1982年講道館が投技の名称を定めた際、ふたたび正式な技に

つまり山嵐は、伝説の柔道家の得意技であり、小説の主人公の必殺技であり、一度は技の一覧から消えた「幻の技」だったわけです。作中で山嵐が「幻の技」と呼ばれるのには、ちゃんと現実の裏付けがあるんです。

連載中に現れた、「平成の三四郎」(事実)

『帯をギュッとね!』の連載の真っ只中、1992年のバルセロナ五輪で、日本柔道に大きなドラマが生まれました。

  • 「平成の三四郎」と呼ばれた古賀稔彦さんが、男子71kg級で金メダル。大会前の乱取りで左ひざを大けがし、得意の一本背負投げが使えない状態でつかんだ金でした。ちなみに、その乱取りの相手は吉田秀彦さん
  • その吉田さんも、男子78kg級で金メダル
  • 女子柔道は、この大会で初めて五輪の正式種目に(1988年のソウルでは公開競技)
  • 田村亮子さんが銀メダル。浦沢直樹先生の『YAWARA!』の主人公に重ねられ、「ヤワラちゃん」と呼ばれるように

三人の「三四郎」をつなぐ線(見立て)

ここからは見立てです。山嵐を操った小説の「姿三四郎」。その名を冠した現実の王者「平成の三四郎」。そして同じ時代に、山嵐を決める少年を描いた漫画。柔道の歴史を知ってから読み返すと、巧の山嵐が、明治から続く「三四郎の系譜」に連なっているように見えてくるんです。

ルールは、いまとちょっと違う(事実)

柔道のルールは、連載当時から大きく変わっています。たとえば「有効」は、2017年に国際ルールからいったん消え、2025年に復活しました。今の試合を見慣れている人は、「これは当時のルールの試合」と思って読むと、もっと楽しめます。

舞台・浜松の地名と、家康の都市伝説(事実+見立て)

作中の校名には、浜松の地名にちなんだものが多く登場します。たとえば、巧たちの前に立ちはだかる「三方ヶ原工業」。三方ヶ原といえば、1573年に、徳川家康が武田信玄に大敗した「三方ヶ原の戦い」の舞台です。場所は浜松のすぐ北。この戦いで、家康軍はほぼ壊滅して退却しました。

この戦いには、有名な「都市伝説」があります。大敗した家康が、浜松城に戻るとすぐに、惨めな自分の姿を絵師に描かせ、慢心の戒めにした。それが「しかみ像」だ、という話です。ところが研究者の原史彦さんは、この絵が三方ヶ原で敗れた家康の姿だという話は、1936年より前にさかのぼれないと指摘しています。つまり、昔からある逸話だと思われていた話が、実は比較的新しい「作られた伝説」かもしれない。こういう話、大好物です。

ここからは見立てです。家康にとって三方ヶ原は、人生でいちばんの大負けの地。その名を冠した強豪校に、無名の新設チームが挑む。地元出身の作者ならではの、いいネーミングだと思います。

出典:山嵐 (柔道)(Wikid)、マンガペディア『帯をギュッとね!』、Toshihiko Koga(英語版Wikipedia)、Judo at the 1992 Summer Olympics(英語版Wikipedia)、Yawara!(英語版Wikipedia)、Judo rules(英語版Wikipedia)、マンガペディア(2019年10月8日の紹介記事)、Battle of Mikatagahara(英語版Wikipedia)、プレジデントオンライン(河合敦、三方ヶ原の戦い、2023年2月25日)

第6章:源流と影響──柔道漫画の「新しい波」

この章も、「記録で確かめられた事実」と「俺の見立て」を分けて書きます。

源流:熱血根性の柔道漫画(事実+見立て)

マンガペディアの紹介記事は、この作品を『柔道一直線』や『柔道賛歌』のような熱血根性ものとは一線を画す作品だと紹介しています。ここまでは事実です。

ここからは見立てです。根性と特訓で強くなる、という「柔道漫画の王道」があったからこそ、「NEW WAVE JUDO COMIC」という看板に意味が生まれる。おちゃらけて、恋もして、でも畳の上では大真面目。この作品は、熱血の系譜を否定したのではなく、そこに「楽しい」を足したんだと思います。

同時代:柔道漫画の黄金時代(事実)

1980年代後半から1990年代前半にかけて、柔道を描いた名作が並んで走っていました。

作品作者掲載誌連載
『柔道部物語』小林まこと週刊ヤングマガジン1985〜1991年(全11巻)
『YAWARA!』浦沢直樹ビッグコミックスピリッツ1986〜1993年(全29巻)
『帯をギュッとね!』河合克敏週刊少年サンデー1988〜1995年(全30巻)

ここからは見立てです。青年誌には『柔道部物語』と『YAWARA!』があり、少年誌には『帯ギュ』があった。しかもその真っ只中に、バルセロナで古賀さんたちが金メダルを取る。俺たち1980年生まれは、漫画と現実の両方で柔道を浴びながら育った世代なんです。かく言う俺も、そんな時代に中学の柔道部に入った一人。バルセロナの夏は、ちょうど中学1年の夏でした。

影響:河合作品の「部活の味」は、ここから始まった(見立て)

この作品から影響を受けたと明言した他の作品は、今回の調べでは見つけられませんでした。ただ、河合先生自身の作品を並べると、バトンははっきりつながって見えます。競艇の世界を描いた『モンキーターン』も、高校の書道部を描いた『とめはねっ!』も、「よく知らない競技に、仲間と一緒にのめり込んでいく」物語。その原型は、まちがいなくこの浜名湖高校柔道部です。

出典:マンガペディア(2016年8月2日の紹介記事)、Judo-bu Monogatari(英語版Wikipedia)、Yawara!(英語版Wikipedia)、マンガペディア『帯をギュッとね!』、Judo at the 1992 Summer Olympics(英語版Wikipedia)、マンガペディア「河合克敏」

第7章:単行本とメディア展開──映像化されていない、だからこそ

何度も出し直されてきた単行本(事実)

版巻数刊行時期
少年サンデーコミックス全30巻1989年9月〜1996年4月
ワイド版全15巻1998〜2001年
小学館文庫全16巻2002〜2004年
電子版全30巻主要な電子書店で配信

連載が終わったあとも、ワイド版、文庫版と形を変えて出し直されてきた。それだけ、読み継がれてきた作品だということです。

映像化は、今回の調べでは見つからず(事実)

意外に思う人も多いと思いますが、『帯をギュッとね!』のアニメ化や実写化は、今回の調べでは見つかりませんでした。また、小学館漫画賞を受賞したのは、次の作品『モンキーターン』の方です。

つまり『帯ギュ』は、賞や映像化の力を借りずに、純粋に「漫画の面白さ」だけで、その世代の読者の心に残り続けているんです。これ、実はいちばんすごいことだと俺は思います(ここは見立てです)。

そして、次の波へ(事実)

『帯ギュ』の完結から1年もたたない1996年、河合先生は競艇漫画『モンキーターン』を週刊少年サンデーで始めます。この作品は第45回(1999年度)小学館漫画賞の少年部門を受賞し、2004年にはテレビ東京でTVアニメ化(全50話)されました。

ここからは見立てです。『帯ギュ』で磨かれた「部活と仲間と、ちょっとの恋」の描き方が、次の作品で花開いた。そう考えると、『帯ギュ』は河合克敏という作家の「黒帯取得」の物語でもあったのかもしれません。

出典:マンガペディア『帯をギュッとね!』、まんが王国『帯をギュッとね!』、マンガペディア「河合克敏」、Monkey Turn(英語版Wikipedia)、Shogakukan Manga Award(英語版Wikipedia)

第8章:深掘り考察──『帯ギュ』がいまも色あせない、三つの理由

連載が終わってから30年以上。それでも読み返したくなるのはなぜなのか。3つに絞って考えてみました。

理由1:「根性」より「楽しい」で強くなるから

マンガペディアの紹介記事は、この作品の魅力を「同級生5人が柔道を楽しみながら強くなろうと切磋琢磨する姿」だと書いています。

ここが、いちばんの発明だと俺も思います。特訓もある。つらい練習もある。でも、その合間に、だらだらした会話や、恋の悩みや、くだらない悪ふざけがある。その全部があるから、畳の上の真剣さが、かえって際立つんです。部活って、本当はこういうものですよね。

理由2:「ゼロから作る」物語だから

強豪校に入って、伝統の中でもまれるのではない。柔道部もない学校で、1年生だけで部を作る。実績も、伝統も、全部これから。

だからこの物語は、強くなる話であるのと同時に、「居場所を自分たちで作る話」でもあるんです。大人になって新しいことを始めるとき、この感覚は、かなり効いてきます。

理由3:本物の柔道と、本物の町があるから

作者は柔道経験者で、浜松の出身。山嵐や谷落としといった本物の技が、浜松の地名をもつ学校の畳の上で飛び交う。作り物の物語なのに、地面がちゃんと現実とつながっている。だから何年たっても、嘘っぽくならないんだと思います。

俺の結論

『帯をギュッとね!』は、柔道の形をした、「仲間と居場所を作る」物語です。柔道を知らない人にも、部活をとっくに卒業した大人にも、たぶんいちばん効くのは、そこです。

出典:マンガペディア(2019年10月8日の紹介記事)、マンガペディア(2016年8月2日の紹介記事)、マンガペディア『帯をギュッとね!』

第9章:もし実写化するなら──俺の妄想キャスティング

※ここから先は、完全に俺の妄想です。関係者の皆様、どうか笑って許してください。

第7章で書いたとおり、『帯ギュ』の映像化は今回の調べでは見つかりませんでした。ならば、妄想のしがいもあるというものです。

役妄想キャスト理由
粉川巧高橋文哉さん2019年の『仮面ライダーゼロワン』で、主人公の飛電或人を演じた人。ちょっとおちゃらけて、でも土壇場では顔つきが変わる。巧の「勘の鋭さ」を、目で見せられるはず
近藤保奈美森七菜さん映画『天気の子』で、ヒロインの天野陽菜の声を演じた人。ひたむきに誰かを応援する、まっすぐな明るさが似合う
倉田龍子黒木華さん映画『小さいおうち』で、第64回ベルリン国際映画祭の銀熊賞(女優賞)を取った人。穏やかな顔で、スパルタな剣道三段の数学教師。そのギャップを、この人で見たい
倉田典善篠原信一さん2000年のシドニー五輪、男子100kg超級の銀メダリスト。判定をめぐる大揺れの決勝のあと、自分を責めた姿が忘れられません。本物の柔道家に、本物の師匠を演じてほしい

そして監督は、映画『ちはやふる』の小泉徳宏さんにお願いしたい。競技かるたという「よく知らない競技」の部活を、最高に熱い青春映画にした人です。河合作品との相性は、抜群だと思います。

XRの仕事をしている身としては、もうひとつ妄想を。VRで「山嵐をかけられる側」を体験できたら、どうでしょう。一瞬で天井が回る、あの感覚。中学の道場で何度も味わったやつです。……元柔道部の意地で、リビングでも受け身だけは取ってみせます。

出典:Fumiya Takahashi(英語版Wikipedia)、Nana Mori(英語版Wikipedia)、Haru Kuroki(英語版Wikipedia)、nippon.com「What Lies Ahead for Japanese Jūdō?」、Chihayafuru Part 1(英語版Wikipedia)

第10章:46歳の俺が、いま『帯をギュッとね!』を読み返して思うこと

8歳から15歳まで、一緒に走った漫画

連載が始まった1988年12月、俺は8歳。完結した1995年は15歳。巧たちが高校で部を作り、日本一になるまでのあいだに、俺は小学生から中学生になりました。あのころの俺にとって、高校生は「大人」でした。その大人たちが、おバカをやりながら全力で何かに打ち込む姿に、ちょっとだけ先の未来を重ねていた気がします。

2つの漫画に背中を押されて、俺は畳に上がった

「はじめに」でも白状しましたが、俺が中学で柔道部に入ったのは、2つの漫画に背中を押されたからです。そのうちの1冊が、この『帯ギュ』。もう1冊は……それはまた、別のクエストで。

ちょっと先の未来を重ねていた高校生たちと同じ柔道着を、本当に着ちゃったわけです。中学時代は柔道に打ち込みました。その甲斐あって、団体戦では関東大会まで行けたんです。

……はい、補欠です(2回目)。

いいんです。団体戦は、チーム全員で戦うものなんで。ちなみに、5人ぴったりで始まった浜名湖高校柔道部には、補欠という概念すらありませんでした。うらやましい。

漫画を読んで、本当に畳の上で投げられまくる側になった。俺の人生を、ちょっとだけ動かした1冊です。バイブル考察と名乗る以上、これを語らずにはいられません。

高校生の息子を持ついま、親の目線で読む

46歳のいま読み返すと、目線がまるで違います。気づけば倉田典善さんや龍子先生の方に、自分を重ねている。

高校生の息子を持つ父親として、何かに夢中になれる仲間がいることの尊さが、いまは痛いほどわかります。勝っても負けてもいい。でも、「あいつらと一緒にやり切った」という記憶は、たぶん一生ものです。いつか息子にこの漫画をそっと渡してみようか。……「古っ」と言われたら、山嵐です。

「部がないなら、作ればいい」

この漫画でいちばん好きなのは、結局ここかもしれません。入った高校に柔道部がなかった。じゃあ、自分たちで作ろう。

俺もいま、「ないなら作る」をやろうとしています。映画やドラマのスチールカメラマンを20年、いまはXRの仕事。そしてこれから、ゼロから農業を始めようとしている。46歳の新入部員です。巧たちには倉田典善さんがいたように、俺にも教えてくれる人たちがいる。中学で一度締めた帯を、もう一度ギュッと締め直す。それに、遅すぎることはない。この漫画は、今の俺にそう言ってくれている気がします。

元スチールカメラマンとして:投げの「一瞬」

20年、動く人を撮ってきた身として言うと、柔道の投げのような動きを写真一枚で伝えるのは、本当に難しいはずです。組み合いから技に入るまでは一瞬で、シャッターを切るのが少しでも遅れれば、もう人は畳に落ちている。

漫画はその一瞬を、自分で選んで描ける。でも、どの瞬間を選ぶかで、技の遅い速いも、重さも、読者に伝わるかどうかが決まる。『帯ギュ』の投げのコマを見ていると、「この人、いちばんおいしい一瞬を知ってるな」と思うんです。柔道経験者の目と、漫画家の目。その両方があるからできることだと思います。

出典:マンガペディア(2019年10月8日の紹介記事)、マンガことば『帯をギュッとね!』

第11章:これから『帯をギュッとね!』を読む人へ──どの版で、どの順番で

いまから読むなら、選択肢は大きく4つです。

版巻数こんな人に
少年サンデーコミックス全30巻当時の形でそろえたい人。古本屋で探すのも楽しい
ワイド版全15巻少ない冊数でまとめて読みたい人
小学館文庫全16巻本棚のスペースを節約したい人
電子版全30巻今日すぐ読みたい人

どの版でも、物語は同じです。これからそろえるなら、手に入れやすい版で大丈夫。

俺のおすすめの読み方

  1. まずは第1巻から。昇段試験の朝の事故から、仲間がそろうまで。ここでハマれば、もう最後まで止まりません
  2. 初めての全国大会で負けるところまで、一気に。「全国の壁」を知ってからの後半が、本当の勝負です
  3. 最終巻は、時間のある夜に。読み終わったあと、しばらく余韻から抜けられません

読む前に知っておきたいこと

  • 連載は1988〜1995年。スマホもSNSもない時代の高校生たちです。その「不便さ」も、いま読むと味わいになります
  • 柔道のルールは、当時といまでは違うところがあります。第5章で書いたとおり、「当時のルールの試合」と思って読むのがおすすめです
  • 柔道を知らなくても大丈夫。マンガペディアの紹介記事も、未経験者でも楽しめる柔道マンガとして紹介しています

【まとめて購入】

出典:マンガペディア『帯をギュッとね!』、まんが王国『帯をギュッとね!』、マンガペディア(2016年8月2日の紹介記事)、Judo rules(英語版Wikipedia)

おわりに──何歳になっても、帯は締め直せる

長々と語ってきましたが、最後に。

『帯をギュッとね!』は、柔道部のない学校で、5人の1年生が居場所を作り、日本一まで駆け上がる物語です。でも本当に大事なのは、勝ったことより、そこに至るまでの、おバカでまっすぐな毎日の方なんだと思います。

この漫画に背中を押されて畳に上がった中学生も、46歳になりました。でもこの漫画を開くと、今でもちょっとだけ背筋が伸びます。何歳になっても、帯は締め直せる。そう信じて、俺も新しい畳に上がってみます。

河合克敏先生。あのころの俺たちに、最高の部活を見せてくれて、ありがとうございます。

次回予告:バイブル考察⑭『柔道部物語』

俺を柔道部に入れた「もう1冊」、小林まこと先生の『柔道部物語』を語ります。「この作品を語ってくれ!」というリクエストは、X(@bambooquest)までどうぞ。

ではまた、次のクエストで!

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今世紀最高のマンガだ!未来の漫画好きは必ず読むべし 何故このマンガが世界中で読まれて、累計発行部数が70億冊とかいってないのが不思議でならない! こんなに心を熱くさせる超超ストイック漫画は近年見ていな ...

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堂原智太(どうばらともた)35歳が17年ぶりに会った(ろくに話したことは無い同級生)、葉山美央(はやまみお)35歳に会っての第一声が 『私の息子が異世界転生したっぽい』から始まる もちろんまんが王国で ...

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『上手く』生きたいなら別の本を、『ご機嫌に』生きたいなら、この本を モーニング公式サイトより引用 もうね、この作品と出会って…『ご機嫌』です。 読んで欲しい読んで欲しい読んで欲しい読んで欲しい読んで欲 ...

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もちろん、まんが王国で異世界おじさんは読めます。 なんか、あらすじ書いててニヤニヤしちゃって気持ち悪がられてました。コメダ珈琲で。 毎日異世界転生しまくってるトラベラーの自分からすると、夢のような展開 ...

-柔道, 漫画/COMIC/アニメ
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