「異世界」と聞いて剣を握ると思ったら、ここはメジャーな討伐を外して、マイホームで殴ってくる。
『ソアラと魔物の家』は、魔物たちの暮らしを住まいから立て直す、異世界建築冒険譚。戦いが終わった世界で、居場所を失った少女が、家づくりで世界を再接続していく物語です。

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※ここから先はネタバレを含みます。
作品基本情報
- 作品名:ソアラと魔物の家
- 作者:山地ひでのり
- 掲載:サンデーうぇぶり
- 第1話:「1軒目 魔物の家 / 2軒目 ゴブリンの家」(2021年11月25日公開)
- 単行本1巻:2022年5月12日発売/B6判・200頁/定価770円(税込)
- ジャンル感:冒険・ファンタジー・異種族/人外
あらすじ
孤独な少女ソアラは魔物狩りの戦士として育てられ、初陣直前で戦争が終わってしまう。目的も居場所も失った彼女が出会うのが、魔界建築士を名乗るドワーフたち(中心にいるのがキリク)。彼らは魔物のための住まいをつくり直し、魔界を旅していく。
この物語のキモは、「家=背景」じゃなくて家そのものが事件であり、救いであり、会話の主語になってるところ。
登場人物
ソアラ
元・魔物狩りの戦士として育てられた孤児の少女。休戦で役目を失い、帰る場所も目的も消えたところから物語が動き出す。家づくりの旅の中で、彼女自身の「居場所」を作り直していく主人公。
キリク
ドワーフ族の魔界建築士。魔物たちの欠陥住宅を、住める「家」に改築して回るリーダー格。戦わずに世界を変える方法として「建築」を選んでいるのが、この作品の思想そのもの。
ドワーフの仲間たち
キリクと共に各地を巡り、施工・資材・段取りを回す現場側の仲間。物語のテンポを作る重要ポジション。
- ニコ(ニコラウス):痩せ型の青年ドワーフ(参謀・交渉・ツッコミ側になりやすい)
- ガンショウ:巨漢ドワーフ(施工・パワー・安心感担当になりやすい)
※ニコ/ガンショウの表記は、キャラ整理系の資料で広く流通している名前に基づきます(公式の人物紹介ページ形式の一次情報が見つからないため、表記ゆれがあれば作中表記優先で)。
レオニダス(ドワーフ国の王子)
物語が進むと、ドワーフ側の国家や過去に踏み込む局面で存在感が出る人物。キリクの背景を照らす鍵になっていく。
四槌ジスパ(ドワーフ王子)
こちらも後半で名前が出てくる王族側の人物。過去編/政治側の気配を強めるパーツ。
依頼主として登場する魔物たち
この作品は「敵」じゃなく「施主」。魔物が暮らしで困ってるから、家が物語の主役になる。
- スライム:移動の遅さを解決する床、みたいに生態がそのまま設計条件になる
- ゴブリン:粗暴さに耐える建材・作り方がテーマになりやすい
- グリフォン:卵が割れない巣など、守る一点から構造を逆算する系の依頼で効いてくる
- 雷狼と人魚の夫婦(バルド/マリエル):種族差のせいで触れ合えない、という恋愛×住環境の無茶題が来る巻もある
推しポイント(なぜユニークか)
1) 戦うの代わりに直すでカタルシスを作る
ビフォー→アフターの快感って、バトルの勝利と同じくらい気持ちいい。しかも勝ち方が「相手を倒す」じゃなくて「相手が暮らせる形にする」。この転換が、作品全体をやさしくて強い方向に押し出します。
2) 魔物の生態がそのまま間取りになる発想
例えば公式の内容紹介だけでも、
- スライムの移動の遅さを解決する床
- 粗暴なゴブリンに適した建材
- グリフォンの卵が割れない巣
みたいに、問題設定が生活に根差してて最高。
つまりこの漫画、異世界なのにやってることは「現地調査→設計→施工→検証」なんよ。異世界を現場として描いてるのが強い。
3) ソアラの居場所探しが、毎回の建築に染み出る
家を建てる話のはずなのに、読後に残るのは「この子、どこに帰れるんだろう」って余韻。戦争で役割を奪われたソアラが、家づくりの旅で役割を再発明していく導線が効いてます。
3つの視点で読む(感情/論理/異業種)
感情的視点:泣かせに来ないあったかさ
号泣じゃなくて、ストーブの前でぼーっとしてたら涙が勝手に出るタイプ。家って、結局「安心の置き場所」だから。
論理的視点:問題解決の粒度がちょうどいい
「魔物の住環境」という大テーマを、スライム床・ゴブリン材・卵の巣みたいな小さな依頼単位に分解して見せる。だから読みやすいのに、世界が広がる。
異業種的視点:これは異世界版プロダクト開発漫画
ユーザー(魔物)理解 → 課題定義 → 試作(設計)→ 実装(施工)→ フィードバック。
もしこれを現代に置き換えるなら、建築だけじゃなく UXデザイン/店舗づくり/観光体験設計にもそのまま刺さる構造です。
「もし〜だったら?」で、もっと刺す
もしこの物語が家じゃなくて武器だったら、よくある異世界で終わる。
でも逆に、家を武器にしてるから、世界を殴らずに世界を変える話になってる。ここが尖りポイント。
具体例(作品の気持ちよさが出るところ)
※公式紹介にある範囲の例です。
- スライム問題:「遅い」=弱点じゃなく、床で性能を拡張する発想
- ゴブリン問題:「粗暴」=住環境を壊す前提で、素材側を最適化する発想
- グリフォン問題:「卵が割れる」=守るべき一点から巣全体の構造を逆算する発想
この生態×設計の噛み合わせが、毎回ちゃんと読後感を残してくれるタイプ。
こんな人におすすめ
- 異世界が好きだけど、討伐ループにちょっと飽きてきた
- 間取り図・断面図・クラフト要素に弱い
- 「優しいのに熱い」作品が読みたい
- 人外・異種族の生活を覗くのが好き
- 仕事や人生で、役割を失った経験がある
合わないかも
- バトルの連続でアドレナリンを浴びたい
- 設計や生活描写より、能力バトルの設定談義が主食
似た読後感になりやすい作品
「生活×異世界」「職能で世界を見る」系が好きならこのへんも相性良いはず:
- 『ダンジョンの中のひと』
- 『ラーメン赤猫』
- 『ヘテロゲニア リンギスティコ~異種族言語学入門~』
- 『骨ドラゴンのマナ娘』
- 『獣王と薬草』
総評(おすすめ度)
おすすめ度:★★★★☆(4.6/5)
異世界の戦いを、暮らしの設計に置き換えたことで、やさしさが逃げない。
今のアイデアがもし凡庸になるとしたら「建築設定が飾り」になった瞬間なんだけど、本作は公式紹介の時点で課題設定が具体的で、ちゃんと家が物語のエンジンになってる。