最近読んで面白かった漫画 漫画/COMIC

最近読んで面白かった漫画「HP5ですけど自動治癒(オートヒール)があれば死にません!」 レビュー

— 紙装甲×オートヒール×配信カルチャーを理屈と笑いでねじ伏せる快作

© 四葉夕卜・三可九丸/秋田書店

関係者の皆さま、画像・内容に問題がある場合はご連絡ください。速やかに対応いたします。

※ここから先はネタバレを含みます。


作品の前提(事実ベースの速習)

  • タイトル:HP5ですけど自動治癒(オートヒール)があれば死にません!
  • クレジット:原作 四葉夕卜/漫画 三可九丸(秋田書店「チャンピオンクロス」)
  • あらすじ:高1の愛曽山愛美が、行方の知れない友達を探すためVRMMO「Real LIFE Online2」を開始。見映え重視で見習い聖女を選んだらHP5&紙装甲の激ピーキー職……だがユニークスキル「自動治癒(オートヒール)」で世界が反転。配信者として伝説を作る聖女伝説コメディ。日曜更新/待つと無料あり(時期で変動)。チャンピオンクロス

常時瀕死の聖女が段取りで世界を攻略する

「HP5」——この4文字の絶望を、作者はギャグで包み、ロジックで食べさせる。主人公・愛曽山愛美は、見映え重視で見習い聖女を選んだ結果、紙装甲&ほぼ即死ラインというピーキー構成にハマる。けれど彼女は引かない。理由は簡単、自動治癒(オートヒール)の確定回復という時間資産を手に入れているからだ。回復は祈りではなく、クールタイム管理×位置取り×釣りAIで上振れを引き続けるための仕組み。だから彼女の実況は軽口で、実際のプレイは冷徹。凡庸な“努力”の代わりに、誤差の許容と撤退ラインの先出しで勝つ。ここに快感がある。弱さを抱えたまま、設計だけで生き延びる。読後、「俺の月曜日もHP5だが、段取り次第で死にはしないのでは?」という変な勇気が湧くのが本作の効能である。内部リンクで思想の参照点を置くなら、段取りの政治学としてまとめた[うちがキングダムレビュー](https://bicbamboo.com/uchiga-kingdom-biccomi-review/)が相性抜群。弱点を運用でねじ伏せる手つきが共通している。


ゲームは「確率×位置×視界」の三題噺

このVRMMOは、いわゆる見た目の派手さよりも、視界の管理当たり判定の理解が強さを決める。HP5の聖女に許された贅沢は二つだけ。①敵の行動選択を絞る位置に立つこと、②自動回復の発動タイミングを攻めへ繋げる足場にすること。結果、プレイは移動設計>スキル回し>DPSの順に最適化される。さらに本作は配信者視点を採用しているため、戦闘設計が映えるよう自然に整う。危機が明快に提示され、回避のロジックが簡潔に語られ、反撃でオチがつく。ショート動画的な起承転結のテンポが良く、読者の脳内に習慣としての手順がインストールされやすい。ここで重要なのは、強さの源泉が手先ではなく段取りに置かれていること。だからこそ、読者の生活に転用しやすいし、レビューの文脈としても、あなたのサイトに蓄積している「言い換えで状況を再配線する」系の知見——たとえば[あの門の話(アノモン)考察](https://bicbamboo.com/anomon-ganma-review/)——と直結する。名台詞はいらない。**工程の設計**が名台詞の代わりを務めるのだ。


主人公・愛曽山愛美:軽口の皮を被った検証屋

彼女の魅力は、映えと検証の二重人格が矛盾なく同居していること。サムネイルはキャッチー、喋りは軽妙、けれど中身は回復期待値の見積もり撤退ラインの先出しに満ちている。たとえばオートヒールの硬直やCT(クールタイム)を攻めの起点に再定義し、ダメージトレードの勝ちレンジを先に確保してから手を出す。やっていることは経営に近い。黒字を作るまで踏み込まない、赤字が出たら理由を言語化して撤退する。ギャグで包むから疲れないが、骨はかなり硬派だ。しかも視界確保→引き気味に釣る→安全角度から刺す→回復で再装填のが回を追うごとに洗練され、配信映えも性能も上がり続ける。ここが痛快。努力の汗ではなく、設計の余白で魅せるタイプのヒロインは希少だ。ミスしても、失敗の翻訳が速い。だから致命傷にならない。


オートヒールは防具ではなく資金繰り

オートヒールは盾ではなくキャッシュフローだと考えると、この作品が驚くほどクリアに読める。受けた損失を時間で埋めるのが自動回復で、だから主体は時間。愛美は戦闘を「秒単位の損益計算」に還元し、CTが明けるまでの生存確率を地形と視界で底上げする。彼女がやっているのは、火力の正面衝突ではない。リスクの分散再起動の確保だ。結果、HP5という絶対弱体が逆に設計力を鍛える足枷として働き、読者はHPの多さ=安心という素朴な等式を捨てることになる。ここ、マンガとしても教育的。失敗例をわざと挟み、回復の“ロス”を言語化することで、次の成功の因果を明確化する。つまり笑いながらPDCAを回している。やっていることがコンサルティングで草、という感想を抱きつつ、気づけば自分のタスク管理もミクロに整っている。たぶんこの作品、一部の読者の締切を救っている。


観客を推進剤に変える編集術

配信者志望という設定は、ただの味付けではない。編集物語の折り目を、作中の実況と読者の読み口で二重化する仕掛けだ。危険の提示→回避→反撃→オチ。短尺動画が身体化している世代に対し、この流れは快適すぎる。一方で、作品は炎上や伸び悩みといった配信者の現実を軽く触っており、勝利の裏に手数の多さ観客の機嫌がある事実も描く。愛美は承認を餌にしていない。計測可能な称賛——つまり数値と成果を取りに行く。だからこそ、称賛がなくても折れにくい。ここが健やか。創作で消耗しがちな読者に刺さるはずだ。なお、ブログの回遊導線としては、言葉を変えて状況を動かす理屈書きの代表である


味方/敵/システムの三つ巴

本作の対立軸は「人対人」より「人対システム」。敵はバグでもチーターでもなく、仕様の穴環境のストレスだ。ギルドやパーティは“居心地の良い負荷”を提供し、観客は歓声だけでなく検証の素材にもなる。愛美がときどき過疎時間を狙って立ち回るのは、単に穴場を攻めるためでなく、探索の自由度を最大化するため。これも理屈が通っている。パーティプレイが増えると、動きの自由は減り、検証の純度が落ちる。だから彼女は、誰もいない時間に世界を測る。この孤独な測量が格好いい。敵は未知であり、味方は“仮説”。そしてシステムは気難しい神。読者は、愛美が神の気分を読み解く過程を観る。宗教画のようでいて、やっているのはExcelだ。ギャップで笑うが、ロジックでうなずく。


情報量を読み筋で圧縮する巧さ

作画は線の情報密度を必要以上に上げず、コマ間で視線誘導を作るタイプ。これが実況テロップの多い仕様説明回でも読みやすさを保っている理由だ。決めコマの前に空白(間)を置き、読者の脳内で起動を準備させる。ギャグ寄りの顔芸はあるが、物理の説得力を殺さない最低限に律しているのが好印象。テンポ面では、1話内でひとつの検証テーマを設定し、最後に反省会で因果を回収するサイクルが安定。だからアーカイブ視聴(=一気読み)との相性も良い。結果、SNSでの切り抜き的引用にも強い。読者の共感行動を前提にパッケージされた漫画として、構造が今っぽい。


どんな読者に刺さる?——体力ないけど勝ちたい人へ

HPが低い、時間がない、ミスが怖い——そんな生活的デバフを抱えた人ほど、この漫画に救われる。なぜなら、本作の勝ち筋は「強くなる」ではなく「弱いまま勝つ」だからだ。愛美はいつまでもHP5だが、段取りと可視化で世界のほうを下げてくる。これは現実の働き方にも流用できる発想で、タスクを視界の外に追いやらず、当たり判定を確認してから踏み込むやり方そのもの。ブログの既存読者が好きな流儀——たとえば家庭を行政に昇華する視点を提示した[うちがキングダムレビュー](https://bicbamboo.com/uchiga-kingdom-biccomi-review/)——と、精神の骨格が同じだ。弱点は恥ではない。**運用設計のガイド**である。


最初の6話で型を掴み、以降は検証を楽しむ

導入の1~3話で「HP5×オートヒール哲学」を理解し、4~6話で視界確保→釣り→角度取り→反撃の型を身体化する。その後は週次更新のリズムに合わせて、自分の生活も小さな検証を挟んでいくと楽しい。待つと無料(時期により変動)があるなら、クールダウンとして活用し、熱いうちに結論を出さない練習にする。つまり、読むこと自体が段取りの訓練になる。連載が伸びるほど、検証テーマは細分化され、愛美の失敗の翻訳速度が上がっていくはず。読者はその過程を見守り、自分の毎日に小さなABテストを導入するだけでいい。


HP5でも、段取りが強ければ死なない

スペックの穴は、時間配分工程設計で埋める。本作はその原理を、笑いと実演で見せる実況式チュートリアル漫画だ。愛美は才能で押し切らない。言語化→仮説→検証→翻訳の速度で勝つ。だから読後も残るのは、名場面より手順書に近い感覚だ。良い漫画は再現性をくれる。HP5で生き抜く手順は、あなたの月曜朝にも移植可能。呼吸を整え、視界を確保し、オートヒールのCTが明けたら一歩踏み込む。大丈夫、死なない。


出典・クレジット


POPULAR

1

ついに世界がラグナクリムゾンを知る日が!!! ついについについにアニメ化!!ということは全世界にラグナクリムゾンの素晴らしさが伝わる日が 2023年に来るぅぅーーーーー!!! 全然アニメ見ないんですけ ...

2

今世紀最高のマンガだ!未来の漫画好きは必ず読むべし 何故このマンガが世界中で読まれて、累計発行部数が70億冊とかいってないのが不思議でならない! こんなに心を熱くさせる超超ストイック漫画は近年見ていな ...

3

堂原智太(どうばらともた)35歳が17年ぶりに会った(ろくに話したことは無い同級生)、葉山美央(はやまみお)35歳に会っての第一声が 『私の息子が異世界転生したっぽい』から始まる もちろんまんが王国で ...

4

『上手く』生きたいなら別の本を、『ご機嫌に』生きたいなら、この本を モーニング公式サイトより引用 もうね、この作品と出会って…『ご機嫌』です。 読んで欲しい読んで欲しい読んで欲しい読んで欲しい読んで欲 ...

5

もちろん、まんが王国で異世界おじさんは読めます。 なんか、あらすじ書いててニヤニヤしちゃって気持ち悪がられてました。コメダ珈琲で。 毎日異世界転生しまくってるトラベラーの自分からすると、夢のような展開 ...

-最近読んで面白かった漫画, 漫画/COMIC
-, , , , , , , ,