今日は「猫と竜」を全力推薦。
深い森の奥で、猫に育てられた火吹き竜——羽のおじちゃん。猫の一生は短い、竜の寿命は長い。だからこそめぐる季節のなかで、猫・人間・竜の「ちょうどいい距離感」が、ゆっくり・じんわり・時々バチッと立ち上がる。宝島社「このマンガがすごい!WEB」発のコミカライズ。原作はアマラ、漫画は佐々木泉、キャラクター原案は大熊まい。穏やかな読後のなかに、生活の知恵と魔法の理がちゃんと残る。

©佐々木泉・アマラ・大熊まい/宝島社
©アマラ・宝島社/「猫と竜」製作委員会
関係者の皆様、画像使用・内容に問題がある場合はご連絡ください。速やかに対応します。
※ここから先はネタバレを含みます
まず一言レビュー
「優しさ」を甘く書かない。
助けるより寄り添う。この漫画は、猫のやり方で世界を整える。竜は火を吐くより、待つことと見守ることを覚えた。結果、読者は“強さ”の定義をアップデートされる。日常の手触りと異世界の理が同居する、稀有なスロー・ファンタジー。
作品データ
- 作品名:猫と竜
- 原作/漫画/キャラ原案:アマラ(原作)/佐々木泉(漫画)/大熊まい(キャラクター原案)
- 掲載・レーベル:「このマンガがすごい!comics」(宝島社)/コミカライズ配信は「このマンガがすごい!WEB」発。電子は各書店(マンガボックス配信・BookWalkerほか)で展開。
- 既刊:コミックスは既刊11巻(電子配信表記・2025年時点)。
- 元作品:小説投稿サイト「小説家になろう」発の人気作で、後に宝島社より書籍化。
- メディア化:TVアニメ化企画が進行(公式サイト公開)。
導入の要点:
魔獣うごめく森で、猫(ケットシー)に育てられた人間嫌いの火吹き竜が、猫たちの羽のおじちゃんとして代々の子らを見守る。やがて猫は巣立ち、人間と暮らす子も出てくる。冒険者ギルドの看板猫、孤児院で少女に魔法を教える白猫、職人としてねこじゃらし畑を守る猫——エピソードが“短編連作”の呼吸で積み上がり、気づけば森の外へ、街へ、王都へと、優しさの連鎖が広がる。
ここが面白い
1)手段としての魔法が生活に埋め込まれている
この世界の魔法は、火力勝負の必殺技ではない。
猫が子に狩りを教える延長にちょっと便利な技として置かれ、孤児院の少女には暮らしを回す学びとして伝わる。魔法で人を支配しない、飾らない。結果、一話の終わりに残るのはド派手なカタルシスではなく、今日ちょっと優しくなれるコツ。この配置が、短編連作の芯になっている。
2)「時間の流れ」を物語の本体に据える
竜は長命、猫は短命。長い時間軸のなかで、兄弟猫が眠り、その子らが育ち、また新しい命が生まれる。別れは淡く、出会いは静か。キャラの入れ替わりが喪失ではなく継承として描かれるから、涙の質が上品になる。守るとは、今そばにいる子へ手を差し伸べること——やさしさの定義が年輪を重ねていく。
3)人間社会との距離感がいつも更新される
猫は人間の生活圏にも溶ける。冒険者ギルドの看板猫は、利害の渦にいるけど、猫としての矜持で接客する。街や王都への波及回では、ルールや貨幣や噂話が物語の燃料になる。それでも視点は「猫の都合」と「竜の良心」。異種間のすれ違いを物語の対立軸にしないところが、読後の静けさに直結している。
4)語りすぎない設計の信頼感
世界の理(り)は、語られない部分ほど美しい。
作者は設定資料を見せびらかさない。例えば「竜が酔う植物」みたいな小ネタを投げて、猫・人間・竜の連鎖反応を観測させる。読者は余白で思考することを求められ、結果的に世界の厚みを自分の中に育ててしまう。
5)やさしさの解像度が高い絵
線は柔らかく、コマ運びは呼吸が深い。目線の置き方、擬音や余白に、猫の歩幅と竜の溜めが宿る。アクションの代わりに間で魅せるコマが多く、ページをめくる速度が心拍と同期する。結果、長編の骨格を持ちながら、一話完結の満足が担保される。
6)善良を無菌化しない
困っている人がいれば助ける——それでも、助けないこともある。
見守ると手を出すのあいだに、猫の線引きがある。人間社会の事情(嫉妬、見栄、貧しさ、偶然)もそのまま通す。ご都合主義に逃げない淡さが、逆説的に温度を上げる。
7)読み味が食後に効く
夜更けに読むと、ノンカフェインのハーブティーみたいに落ち着く。
朝読むと、道端の猫に挨拶したくなる。副作用は誰かを急かさない耐性が上がること。これは現代生活に必要な防具だと思う。
キャラクターメモ
- 猫竜(羽のおじちゃん):猫に育てられた火吹き竜。基本、人間は苦手。だが猫のお願いは断れない。待つ・見守る・必要なら一撃。
- 森の兄弟猫:代替わりしながら、竜と連帯し続けるコミュニティ。腕利きの師匠猫から、のんびり屋、職人肌まで。
- 白猫(孤児院編):ものぐさ少女に魔法を教える先生。生活に魔法を根づかせる。
- 看板猫(ギルド編):人間社会の真ん中で、猫の矜持を貫く。
※上記は短編連作の典型例としての整理。巻ごとに名もなき良キャラが多く、出会い頭に心をさらっていく。
読み口とテンポ
- 1話に出会い→小さな試練→価値の更新(or据え置き)→余韻が収まる。
- 敵役の悪は肥大化せず、問題のスケールは生活半径。物語の解決は折り合いの再発明。
- 読後は静音設計。寝る前に1話、週末に数話、のどちらも気持ち良い。
- 連続視聴(アニメ)に最適な粒度でもある。TVアニメ「猫と竜」公式サイト
どこから読む?
- まずは公式・配信ストアの試し読みへ。BookWalker・コミックシーモア・各電子書店に既刊(1~11巻)。試し読み→気づけば次ものやつ。電子書籍ストア | BOOK☆WALKER
- 待つと無料運用で追うのも手。更新の呼吸に合わせると、週の生活が少し優しくなる。ebookjapan
こんな人に刺さる(そして刺さらない)
刺さる人
- バトルの代わりに間を楽しみたい
- やさしさを具体的な行動で見たい
- ペットではなく猫という在り方を愛している
- 仕事や子育てで待つ勇気が欠乏している
刺さらないかもしれない人
- 明快な悪をぶっ飛ばすカタルシスが常に欲しい
- 設定の詳説を作中で手取り足取り知りたい
- 1冊で全面決着を求める
私的・読みどころの具体(軽ネタバレ)
- 孤児院の白猫回:勉強は効率ではなく生活の回し方。白猫の教えは、偏差値で測れない学びの原点。
- ギルド看板猫回:経済圏の真ん中で、猫の機嫌と誇りが通貨になる。店の信用とは何かがよく分かる。
- 竜またたび回:世界の理は時々ふざける。笑いながら、依存と節度の話にもなっている。酔うのは何も酒だけではない。
似ているようで違う、比較軸
- 『葬送のフリーレン』:長命者の時間感覚×後日譚の滋味。ただし『猫と竜』は生活密着の比率がさらに高く、感情の抑揚は極小振幅。
- 『魔女の宅急便』:働く・暮らす・たすけあうの半径感。『猫と竜』はより師弟と継承に寄る。
- 民話・昔話:語りすぎない美徳、寓意の置き方。現代の衛生観念と倫理観で研磨したいまの昔話。
メディア化に向けての妄想的所感
アニメは、音と間が命。
風の通り、ページの余白、紙の匂いまで感じるコマをどう音響化するか。音楽は弦より木管、パーカッションは極力控えめ、猫の足音は音ではなく無音で作るのが似合う。背景は描き込みすぎず、フォーカスで距離を出す。——と、勝手に監督面して語ってしまうくらい、映像の余白が似合う作品。楽しみしてます!!TVアニメ「猫と竜」公式サイト
生活に持ち帰れる猫と竜式ハック
- 待つ:子や部下や同僚に、1テンポ置く。
- 見守る:失敗の自由を確保する。
- 頼る:自分も猫のお願いを言語化する。
- 折り合う:勝ち負けではなく、機嫌を保つ設計に。
- 継承する:やり方をノートではなくふるまいで残す。
相性良し作品
- ゆるやかな短編連作で、生活の理を磨く系。
- 公式ストアの試し読み→睡眠前1話のルーティンにどうぞ。
(※本項の具体リンクは各公式配信ストア・シリーズページへ)
まとめ
「猫と竜」は、優しさを生活レベルに定着させるファンタジー。
竜の長命と猫の短命が織りなす時間の編み目は、派手さを抑えた分だけ、あとから効いてくる。短編連作の一話一話が、読者の暮らしの動作を静かに更新する。寝る前の一服に、休日の午後のデザートに、日常の持ち帰りとしての一冊。
公式リンク
- 作品基本情報(このマンガがすごい!WEB /作品紹介)(マンガペディア)
- 公式特設/アニメ情報(TVアニメ「猫と竜」公式)(TVアニメ「猫と竜」公式サイト)
- 電子書店の作品ページ例(BookWalker・コミックシーモア ほか)(電子書籍ストア | BOOK☆WALKER)
要点サマリー
- 何が良い? 魔法が暮らしに落ちている/時間(寿命差)を物語の本体に/善良を無菌化しない。
- 誰に薦める? 間で泣きたい人、やさしさの動作を学びたい人。
- どこから? 試し読み→睡眠前1話ルーティン。
- 今後は? アニメ化の余白の活かし方に大いに期待。TVアニメ「猫と竜」公式サイト
(本記事は参考情報の要約・編集を含みます。公式の最新情報は配信元・出版社の告知をご確認ください。)